令和3年度までに乱流輸送モデルDeKANISの機能を拡張した。まず、電子の粒子輸送のみを対象としていたが、電子及びイオンの熱輸送を同時に扱えるようにした。DeKANISは準線形理論を仮定して得られる乱流流束を機械学習モデルの一種であるニューラルネットワーク(NN)モデルを利用して高速に予測する。このNNモデルの訓練データは、ジャイロ運動論コードを用いた第一原理計算の結果から構成されている。次に、訓練データの点数を2千点程度から1.1万点程度まで増加させつつ、訓練データが及ぶプラズマ変数領域を拡張した。領域が特に広がった変数は電子とイオンの温度比であり、ITERの初期段階で計画されている電子加熱主体の放電の予測が可能になった。さらに、乱流揺動の飽和レベルの評価に混合長理論に基づく手法を導入し、帯状流による乱流揺動の抑制効果に衝突による寄与を取り入れ、汎用性を向上させた。 令和4年度は水素同位体効果を導入した。捕捉電子に起因する不安定性は水素同位体の質量が大きいほど衝突により抑制されやすい傾向を取り入れるよう乱流揺動の飽和レベルを決める手法を改良した。また、NNモデルの訓練データは、重水素を仮定した計算結果のみで構築されていたが、軽水素の計算結果を追加した。データ点数は2万点程度となった。新しいDeKANISによるJT-60Uを想定した分布計算では、軽水素に比べて重水素の方で高い温度が得られる一方で、密度分布には違いが現れず、本研究課題において学術的「問い」としていた実験観測結果を再現する結果が得られた。 DeKANISの改良に加えて、ジャイロ運動論コードから得られる速度分布関数の時間発展を波数空間上の画像として可視化し、画像の特徴を捉え、画像に対応する時刻や乱流流束を予測する畳み込みNNモデルを開発した。このモデルはジャイロ運動論コードを用いた乱流輸送研究の高効率化に資する。
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