本研究では、太陽電池の表面温度上昇・降下防止コントローラや熱遮蔽窓ガラスへ応用できるような、温度相転移を示す20 nm以下の極薄二酸化バナジウム(VO2)を大電力パルススパッタ法(High Power Impulse Magnetron Sputtering: HiPIMS)によってZnO/Glass基板上に堆積することを目的とした。初年度は、COVID-19の影響で進捗がやや遅れたが本研究課題専用スパッタチャンバーの基板加熱ユニットの設計・製作を行い、基板温度制御と真空排気性能の評価を行った。さらに、直流マグネトロンスパッタ法(DCスパッタ法)を用いて適切に放電および製膜できることを確認した。2年目はDCとHiPIMSスパッタ法を用いてガラス基板上にZnO薄膜の堆積を行った。様々な測定結果を解析し、異相がわずかに残っていたものの、良好なZnO薄膜成長が確認できた。HiPIMS法では、DCスパッタ法よりも低温で結晶成長が確認でき、この成果は国際学会IVC-22で報告した。さらに、同一の製膜条件において、HiPIMS法ではDCスパッタ法よりも成膜速度が高くなることを見出した。一般にHiPIMS法はDCスパッタ法より成膜速度が遅いとされているが、反応性プロセスではこの関係が逆転した、今後の新たな研究課題として追求してみたい。 最終年度は、前年度に堆積させたZnO薄膜に含まれていた異相を抑制するため、基板位置やHiPIMS法のパラメータをさらに変更し、再度ZnO薄膜の成膜を試みた。その結果、ZnOの結晶性が大きく改善された。ZnO薄膜の結晶性を向上できたのでHiPIMSとDCスパッタ法を用いてVO2薄膜の堆積に挑んだ。色々な製膜パラメータを変化させたが、いずれの成膜手法でもVO2薄膜の成長は確認できず、従来通りの酸素量流のコントロールではVO2の成長は難しいことが示唆された。
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