研究課題/領域番号 |
20K14468
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
青木 勝輝 京都大学, 基礎物理学研究所, 特別研究員(PD) (80822288)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 重力理論 / 宇宙論 |
研究実績の概要 |
重力理論が曲率のみによって記述される場合、高次曲率理論はOstrogradsky定理によりゴーストでない有質量スピン2粒子を記述することは不可能である。一方で、曲率の他に捩率が存在すると、高次曲率理論はゴーストでない有質量スピン2粒子を少なくても線形摂動のレベルでは記述できることが知られている。しかし、このような理論も非線形レベルではゴーストが現れると考えられていた。私は、最近の有質量スピン2粒子に関する研究進展を用いて、非線形レベルでもゴーストが現れない有質量スピン2粒子を記述できることを示した。さらに本結果をAdS/CFT対応に応用させ、3次元new massive gravityにおけるユニタリー性の破れの問題は捩率を導入することで自然に解決されることを示した。 一方、Lovelock定理として知られるように4次元、ローレンツ対称性、テンソル自由度のみをもつという仮定の下で一般相対論は唯一の理論である。それに対してGlavanとLinは高次元で定義されるガウス・ボネ重力理論の特異4次元極限をとることでLovelock定理から逃れた新たな重力理論が存在することを主張した。だが彼らの結果は実際にはLovelock定理と矛盾しており、私はGlavanとLinの議論における問題点を明らかにし、その問題点の解決策を提示した。さらに、正しく定義されたガウス・ボネ重力理論の4次元極限における宇宙論の解析及びインフレーション宇宙から生成される初期重力波を解析した。このようなテンソル自由度のみをもつ重力理論にはローレンツ対称性の破れが必須であるが、ローレンツ対称性の破れのみならず局所性の破れとも関連していることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
重力が曲率のみならず捩率をもつ場合には、独立変数が増えるために具体的な解析が煩雑になるという技術的問題点が存在する。当該年度見つけたゴーストのいない高次曲率理論における解析において計算の煩雑さを簡単化できる変数変換を見つけた。これを用いることで今後の研究を順調に進展させることが出来ると期待される。一方で、ガウス・ボネ重力理論の4次元極限の解析によって、このような重力理論は通常のインフレーション宇宙とは異なった観測量を導くことを示した。これは当初の計画にはなかったものであるが、本研究の目的である宇宙観測から重力理論の性質を検証するという目的に沿ったものであり、全体として順調に研究が進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
これまで行った捩率を含む重力理論の解析は、より一般のフレームワークである計量アフィン重力理論まで拡張することが可能である。より統一的に観測制限を得るために、これまでの解析を計量アフィン重力理論へと拡張する、具体的には一様等方宇宙の解析を行い、インフレーション宇宙が安定的に得られるパラメータ領域を見つける。その次にインフラトンとなる自由度以外が重くなる極限を用いて観測量を実際に導く。一方で、インフラトン以外の自由度、特に有質量スピン2粒子、の質量を有限としてそれらの寄与を取り入れる場合には、本年度に見つけた変数変換の手法を用いて計算を行う。 変数変換の手法によって一部パラメータ領域の計算は簡単化されると期待されるが、全パラメータ領域の解析を行うことは技術的に困難であると予想される。通常、宇宙論の観測量を導くためには具体的な理論模型を仮定してその模型における観測量を計算することが行われるが、近年、場の理論におけるブートストラップと呼ばれる手法を用いて具体的な模型を仮定するのでなく、理論のもつ基本性質(自由度、局所性等)から直接インフレーション宇宙の観測量を評価しようという試みがある。この試みを用いることで捩率を含む理論における解析の技術的困難さの解決を図る。 一方、当初の研究計画では捩率という新たな自由度をもつ重力理論の検証を目的としていたが、当該年度に見つけたように新たな自由度を持たない、すなわちテンソル自由度のみをもつ重力理論の検証は基礎理論が局所性を満たすか否かを明らかにするために重要となることが明らかとなった。そこで、今後は捩率をもつ理論だけでなく、テンソル自由度のみをもつ重力理論にもターゲットを広げて、広い意味で重力の自由度の検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では国際研究会や研究打合せで国内外への研究出張を予定していたが、COVID-19の影響によりこれらの出張を中止とせざるを得なくなってしまったため次年度使用額が生じた。現在、様々な研究会がオンラインで開催されているが、様々な研究者と議論を行い、新たな研究を開始するためにはオンラインでは不十分である。COVID-19が落ち着き次第、本来予定していた使用計画に加えて研究発表及び研究打合せを行い、今年度に行えなかった現地での研究交流・議論を行う予定である。
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