研究課題/領域番号 |
20K14469
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
吉田 大介 神戸大学, 理学研究科, 特別研究員(PD) (90849861)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 宇宙論 / インフレーション / 初期特異点 / 弦理論 |
研究実績の概要 |
本研究は、時空特異点の無いようなインフレーション以前の宇宙像の解明を目標としています。この目標に向け、本年度は主に弦理論の観点から「インフレーション宇宙の初期特異点の弦理論への影響」を調べました。 インフレーション宇宙では、宇宙の膨張から相対的に運動しているような観測者に沿って過去に遡ると初期特異点に到達する場合があることが、これまでの研究で明らかになってきました。この特異点は、ビックバン宇宙やブラックホール時空に現れるようなスカラー曲率特異点とは異なり、曲率スカラーが有限にもかかわらず生じる特異点であることが知られています。これは、インフレーション宇宙のエネルギースケールが有限にもかからず生じる特異点であるため、このような特異点の存在が、古典重力理論の破綻を表すかどうかは明らかではありませんでした。私は、弦理論に基づき、インフレーション宇宙の初期特異点を通過する閉じた弦の運動を解析することで、この問題に取り掛かりました。 解析の結果、インフレーション宇宙の初期特異点は2つのクラス(強い特異点、弱い特異点)に分類され、強い特異点を閉じた弦が通過する際には、弦の無限に重い振動モードが励起されることがわかりました。これは、非摂動的な弦理論効果を考慮する必要性を表しているため、インフレーション宇宙の初期特異点が確かに古典重力理論の破綻を引き起こすことが確かめられたことになります。さらに、典型的なインフレーション模型であるスタロビンスキーモデルの初期特異点は、強い特異点であることも確かめられました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的であった弦の巻きつき自由度による特異点の解消は、周期化された宇宙にのみ有効だと期待される効果でした。一方、本年度に行った研究は、周期化されていないようなインフレーション宇宙の初期特異点について、弦の振動自由度がきちんと励起され量子重力理論的効果が必然的に有効になってくることを示したもので、特異点を解消したインフレーション以前の宇宙像の解明に向ける大きな一歩となった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画は、量子宇宙論と弦理論という、特定の量子重力理論的効果による初期特異点の解消を目標にしていました。これに対し、今後の計画としては、特定の理論にとらわれず、より一般的に特異点の無い宇宙の性質に迫っていきたいと考えています。具体的には、ペンローズによる特異点定理を用いて、特異点の無いような広いクラスの宇宙について成立する一般的性質を明らかにし、インフレーション以前の宇宙像に迫っていきたいと考えています。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス蔓延の状況により、申請時に計画していた海外で行われる研究会への参加や海外の研究機関における滞在研究ができなかったため、また、国内における研究会・滞在研究、講師を招聘しての招待講義等も予定通り行えなかったため、次年度使用額が生じています。次年度には、今年度行えなかった、上記の国内外の学会への参加・滞在研究や招待講義を行うほか、オンラインによる研究環境を整えるための物品購入等に使用したいと考えています。海外の研究者との研究を推進したいため、新型コロナウイルス蔓延の状況に応じては、研究期間の延長も考えています。
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