研究課題
これまでカルシウム以下の軽い原子核についてはアルファクラスター状態がよく研究され、理解されてきた。本年度では、典型的なアルファ崩壊核であるポロニウム同位体 212Po, 210Po を対象に、アルファノックアウト反応の分析を行った。このようにアルファ崩壊核に対してアルファノックアウト反応が検討されるのは画期的で新しいアイデアであり、アルファ崩壊でのポテンシャルトンネル過程からは独立に、アルファ粒子形成率のみがこの反応から決定できる可能性がある。本研究では、既存のアルファ崩壊の分析から得られたアルファ振幅を用いることで、ノックアウト反応断面積の 212Po/210Po 比を検証した。結果として、アルファノックアウト反応断面積の比は、崩壊の寿命を決定づけるアルファ換算振幅の比と良く一致することが確認された。これは、アルファノックアウト反応が原子核のごく表面でのみ起こる反応であるという特徴に起因することがわかった。このことから、当初の期待通り、アルファノックアウト反応はアルファ崩壊核でのアルファ粒子形成率を決定可能であることを理論的に確かめた。この成果はプレプリントとして arXiv:2111.07541 に掲載されている。また、アルファノックアウト反応を用いた原子核の偏極という新しい現象についても理論的示唆を行った。この研究では無偏極なアルファノックアウト反応において、反応の運動学を適切に選ぶだけで、残留核が偏極した反応イベントを選び出すことができることを明らかにした。本研究の成果はプレプリント arXiv:2202.00225 に纏められている。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、これまでよく研究が行われてきた軽い原子核の領域を超えて、より重い原子核領域でのアルファ粒子形成についての理解がアルファノックアウト反応を通じて深まってきている。本年度の研究成果として、アルファ崩壊核であるポロニウムでのアルファ粒子形成率がアルファノックアウト反応で決定できることを理論的に確認できた。軽い原子核でのアルファ粒子形成(アルファクラスター)現象の普遍性を調べるという本研究計画の目的を考えれば、特に重い原子核であるポロニウムで本成果が得られたことは重要であり、研究計画は順調に進展していると言える。
本年度の成果として、特に重い原子核領域であり、アルファ崩壊核であるポロニウムでの研究が進展した。次の課題は、原子核構造理論と反応理論をうまく組み合わせ定量性の高い理論計算を行うこと、また、実験で測定できる系での理論予測と実験データ解析を行うことである。実験計画については、主に理研の実験専門家との議論や実験計画がすでに進んでおり、取り扱いの難しいアルファ崩壊核を用いたノックアウト反応実験ではあるが、データ計測の目処が立っている。構造理論計算についても、クラスター状態の記述に長けた反対称化分子同力学や、密度汎関数法に基づいたアルファ粒子形成率の理論研究が近年盛んに行われており、これらの理論研究者との共同研究を進めることが重要である。
当初計画では、ワークステーション等の計算機資源の購入を予定していたが、本年度は所属機関内で所有する計算機資源で対応できたため、系統的な計算を行う可能性がある次年度以降に購入を見送った。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて、本年度に参加した研究会や共同研究の打合せのほとんど全てがオンライン形式で開催されたことから、理論研究の主要な研究費用途である出張費がほぼゼロになった。特に海外出張については本科研費研究が始まって以来一度も実現していない。次年度使用額は、次年度分経費と合わせて、計算機資源の購入費用や可能であれば国際会議等の出張費用として使用する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
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