研究課題
これまでの研究では、軽い原子核や中重核を対象にアルファノックアウト反応を用いてアルファクラスター状態の研究を行ってきた。本年度では、本研究の主要なテーマである重い原子核の核表面でのアルファ粒子形成について、アルファノックアウトの観点から研究を行った。典型的なアルファ崩壊粒子である210Po, 212Po では、そのアルファ崩壊寿命の測定値を説明するようにアルファ粒子形成率が間接的に決定されていた。本研究では、アルファ崩壊核からのアルファノックアウト反応を用いることで、そのアルファ粒子形成率をアルファノックアウト断面積として直接的に決定できることを示した。この結果は Physical Review C 106, 014621 (2022年6月) に掲載され、また、この成果は第17回(2023年)日本物理学会若手奨励賞 理論核物理領域(第24回核理論新人論文賞)を受賞した。本研究計画の成功を象徴する成果といえる。また、関連する派生的な研究として、新奇なノックアウト反応として重陽子ノックアウト反応を用いて原子核内での重陽子的な陽子・中性子相関の研究成果を出版した (Physical Review C 106 064613)。アルファノックアウト反応を用いた新たな原子核偏極生成法の研究や、重陽子による包括的ノックアウト反応断面積の理論研究、核子およびアルファノックアウトにおける吸収効果とその系統性に関する研究も論文として纏め、現在査読中である。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の目標はアルファノックアウト反応によるアルファクラスター構造の網羅的研究であったが、その最も重要な対象である、アルファ崩壊するような重い原子核に対する研究が成果としてうまく纏まった。また、本研究の成果は日本物理学会若手奨励賞を受賞し、原子核研究コミュニティでも重要な成果として評価され、今後の実験研究や原子核構造理論研究を促進すると期待される。以上から、本研究は当初の計画以上に進展しているといえる。
中重核やアルファ崩壊を起こすような重い原子核でのアルファ粒子形成を記述することは依然として原子核構造理論として難しい課題である。最近は平均場理論や反対称化分子動力学による原子核構造理論研究の専門家との議論を進めている。反応理論研究を専門としている私からは、どのような形成機構があればノックアウト反応断面積を説明できるか議論を進めている。実験としては、アルファノックアウト反応を含めた多彩なクラスターノックアウト反応実験研究の計画が理研RIBFを中心に進められており、私もこの計画に参画している。数年内に新たな実験データが網羅的に得られると期待される。
当初計画では計算機資源の調達に多くの予算を割く予定であったが、一部は所属期間の計算機資源で対応できたため、通算の物品費が抑えられた。また、新型コロナの影響で1-2年目の出張等がほとんどできなかったため、旅費に予定していた予算の支出も抑えられることとなり、次年度使用額が生じた。令和4年度は本科研費研究が始まって依頼初めての海外出張も可能となり、旅費の支出は戻りつつある。特に令和5年度は研究成果の発表と、次段階の研究計画の策定に向けての国際学会等への参加が増えることが見込まれており、次年度使用額はその出張に係る費用として次年度分研究費と合わせて使用する予定である。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件)
Physics Letters B
巻: 827 ページ: 136953~136953
10.1016/j.physletb.2022.136953
Physical Review C
巻: 106 ページ: 014621-1-6
10.1103/PhysRevC.106.014621
巻: 106 ページ: 064321-1-10
10.1103/PhysRevC.106.064321
Physical Review Letters
巻: 129 ページ: 262501-1-7
10.1103/PhysRevLett.129.262501
巻: 106 ページ: 064613-1-10
10.1103/PhysRevC.106.064613