研究課題
これまで重点的に行われてきた軽い核でのアルファ粒子形成およびその原子核からのアルファノックアウト反応研究に加え、本研究では重い原子核でのアルファ粒子形成に着目し、ポロニウムのような重く、アルファ崩壊する原子核からのアルファノックアウト反応を理論的に研究し、アルファノックアウト反応断面積とアルファ崩壊課程を決定づける量であるアルファ換算幅との関連を明らかにした。本年度は、アルファノックアウト反応を用いた系統的なアルファ粒子形成の理解に向け、軽い原子核から重い原子核まで、さまざまな原子核からのアルファノックアウト反応を理論的に解析し、ノックアウト反応断面積の系統性を調査した。本成果は J. Phys. Soc. Jpn. 92, 094201 (2023) に学術論文として出版済みである。また、関連する研究として、重陽子を用いたノックアウト反応の理論を発展させた。陽子による重陽子ノックアウト反応では、ポテンシャルによる陽子・重陽子の屈折効果は核内での陽子・重陽子準弾性散乱に大きな影響を与え、陽子による重陽子ノックアウト反応断面積を劇的に変化させることを明らかにした。また、重陽子ノックアウト反応における重陽子の分解・再形成プロセスを適切に取り入れた反応理論を新たに構築した。また、重陽子入射による包括的(残留核の状態をすべて含む)ノックアウト反応についても理論的記述を行い、論文を出版した。本研究の成果物でもある汎用ノックアウト反応計算コードも2023年度中に出版した。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究計画の、アルファノックアウト反応によるアルファクラスターの網羅的研究について予想以上の成果が得られた。また、アルファノックアウト反応研究で得られた知見が重陽子ノックアウト反応の記述にも応用されており、それぞれの反応の共通点・相違点等が多く明らかになった。
近年では、軽い原子核に限らず、中重核や重い原子核でのアルファ粒子形成についても構造理論の観点から研究が活発に進められている。特に、平均場理論ではアルファ粒子形成の議論はこれまであまり行われて来なかったが、ここ数年で錫等の中重核でのアルファ粒子形成を記述する平均場理論も報告されている。また、反対称化分子動力学に基づいた中重核アルファクラスター形成の理論的記述も急速に発達している。今後はこれらの構造理論による予言を用い、アルファノックアウト反応についても予言的研究が期待できる。ONOKOROプロジェクトに代表されるように、クラスターノックアウト反応の実験も現在国内で勢力的に行われており、近い将来に新たな実験データが網羅的に得られると期待される。本研究でも、構造理論・反応理論・実験のすべてを組み合わせた研究を進める。
当初計画では計算機資源の調達に多くの予算を割く予定であったが、一部は所属期間の計算機資源で対応できたため、通算の物品費が抑えられた。また、新型コロナの影響で1,2年目の出張等がほとんどできなかったため、旅費に予定していた予算の支出も抑えられた。また、所属組織の研究予算が当初の予想より確保できた。以上の理由から、予算使用が後ろ倒しになっている。今年度は研究成果の発表と、次段階の研究計画の策定に向けての国際学会等への参加が増えることが見込まれており、次年度使用額はその出張に係る費用として次年度分研究費と合わせて使用する予定である。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 5件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件)
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