研究課題/領域番号 |
20K14476
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
鈴木 渓 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 博士研究員 (40759768)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | カシミール効果 / 有限体積効果 / 格子フェルミオン / トポロジカル絶縁体 / ディラック半金属 / 量子色力学 / 格子QCD / ディラック電子系 |
研究実績の概要 |
通常のカシミール効果は、微小な間隔で置かれた2枚の金属板の存在によって真空のゼロ点エネルギーが変化することに伴って生じる引力(Casimir force)や負エネルギー(Casimir energy)などの物理現象の総称である。量子電磁力学(QED)に基づくカシミール効果、特に、光子場によって生じるものは、1997年に実験的に実証されたが、カシミール効果自体はスカラー粒子やフェルミオンも含めたあらゆる量子場に対して生じることが期待される。したがって、クォークとグルーオンの運動を記述する基礎理論である量子色力学(QCD)への拡張も自然な発想として期待される。QCDにおけるカシミール効果の実験的な観測はもちろん望まれるが、格子QCDシミュレーションを用いた数値的な検証も重要な課題である。 当該年度の主な成果として、ディラック粒子的な性質を持つ格子フェルミオンに対するカシミール効果の公式を初めて導出し、その詳細な性質を予言することに成功した。特に、格子QCDの分野において利用される格子フェルミオンとして、ナイーブフェルミオン、ウィルソンフェルミオン、(ドメインウォールフェルミオン定式化に基づく)オーバーラップフェルミオンにおけるカシミール効果の性質(カシミール力の符号やその強さ、境界条件依存性など)を調べた。これらの予言は将来的な格子QCDシミュレーションが行われた際の結果の解釈に役立つだけでなく、トポロジカル絶縁体表面やディラック半金属などで実現する(近似的な)ディラック電子系に対して観測されることが期待される。 1+1次元系における主な成果は速報論文としてまとめられPhysics Letters Bに掲載された。さらに、2+1次元、3+1次元に拡張した結果とトポロジカル絶縁体などの電子系との関係を議論した原著論文はPhysical Review Researchに受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画で予定していたとおり、格子フェルミオン系におけるカシミール効果の導出に成功し2報の論文が学術雑誌に受理されたため、おおむね順調に進展していると評価する。当初の計画では格子シミュレーションへの応用を想定していたが、トポロジカル絶縁体やディラック半金属など現実に存在する電子系への適用も期待されるという点は、想定していた以上の成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究成果の素朴な拡張として、トポロジカル絶縁体やディラック半金属など現実に存在する物質の性質を定量的に反映した有効ハミルトニアンを用いて同様の解析を行う。特に、格子フェルミオンに対するカシミール効果を実験で観測するためには、カシミールエネルギーを計算するだけでなく、その輸送的性質・電磁的性質・熱力学的性質への影響など、より観測しやすい物理量を予言することができるとよい。さらに、当該年度は相互作用のない系の解析のみを行ったが、クォーク間相互作用が重要なQCDや電子間相互作用を含む強相関電子系などの「相互作用が無視できない系」において、カシミール効果がどのように変化していくかを調べることも重要なテーマである。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受け、令和2年度に開催予定だった国内会議・国際会議の多くが中止あるいはオンライン会議となり出張を取りやめたため、出張に係る経費が次年度使用額として生じた。次年度使用額は、令和3年度分経費と合わせて、出張等に係る経費として使用する予定である。
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