研究課題/領域番号 |
20K14479
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研究機関 | 大阪国際工科専門職大学 |
研究代表者 |
富谷 昭夫 大阪国際工科専門職大学, 工科学部, 助教 (50837185)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 場の量子論 / シュウィンガー模型 / 量子コンピュータ / 変分アルゴリズム |
研究実績の概要 |
本研究では、量子計算の手法を活用して、特にシュウィンガーモデルの相構造の理解を深めることができた。シュウィンガーモデルは相対論的量子電磁気学の一部であり、その理解は物理学全体の理解を深めるのに極めて重要である。 我々は、変分量子アルゴリズムを駆使して、従来のモンテカルロ法では解明することが困難であった有限密度領域の相構造を明らかにした。具体的には、量子計算シミュレータ上でシュウィンガーモデルの変分波動関数・変分状態を実現した。これにより、相互作用や有限温度効果を考慮したハミルトニアンの計算に必要な変分波動関数を用意し、その量子論的・統計力学的な期待値を計算することが可能となった。さらに、有限温度と密度を持つシュウィンガーモデルの相図を作成した。相図は物質の性質を示す重要なツールであり、その生成は本研究の重要な成果である。この成果は、古典と量子のハイブリッドアルゴリズムであるBeta-VQEアルゴリズムを活用することで達成された。 我々の研究は、従来の格子QCDの計算と同様に、連続極限や有限体積効果の評価を行った。その結果、有限温度T>0および化学ポテンシャルμ>0のシュウィンガーモデルの相図の定性的な描像を得ることができた。これは、量子計算を利用して物理学の未解決問題に対する新たな視点を提供する重要な一歩である。 以上の成果は、量子計算が物理の未解決問題に対する有力な手法であることを実証した。量子シミュレーションの分野において、これは基礎的な発展を促すものであり、今後の研究における新たな可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
目標としていた大型計算機用の量子計算シミュレータの開発において、当初の予想を上回る困難さが存在した。具体的には、大型計算機に適合したコード作成が想定よりも複雑であることが明らかとなった。これは大規模シミュレーションの実装に際し、さまざまな要素を並行して考慮しなければならなかったためである。 また低温領域における変分状態の精度が予想よりも悪く、これが状態準備の難易度を増大させる要因となった。シュウィンガー模型の相図の研究において、精確な計算を行うためには、状態準備の過程で生じるノイズを最小限に抑えることが重要である。しかし、実際の計算においては、状態準備の精度を保つことが難しい状況となった。 これらの課題により、研究の進行には一部遅延が生じている。しかし、これらの困難を克服するための対策を現在進行形で検討中であり、今後の研究進行に大きな影響を与えることはないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の進行における課題への対応策として、以下の推進方策を考えている。まず大型計算機用の量子計算シミュレータの開発については、量子シミュレータ及び数値計算のより熟練した専門家に相談を行うことを検討している。専門家の意見や助言を得ることにより、より効率的で精度の高いコード作成が可能となり、シミュレータの開発をスムーズに進めることができると考えている。 次に低温領域での状態準備に関しては、変分波動関数のパラメータ数を増やすことを計画している。パラメータ数を増やすことで、より精密な状態準備が可能となり、低温領域での計算精度向上を期待できる。また、量子計算シミュレータの開発に用いているJulia言語の新バージョンが出ているため、それを活用することで計算速度の向上が見込める。これにより、計算時間を短縮し、研究全体の効率化を図ることが可能となる。さらに、シュウィンガーモデルの相図の解析については、大体積での計算を行うことでより明確な結果を得ることができると期待している。 以上の推進方策を実行することで、本研究の進捗を確実に進めることができると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金が未使用となった主な要因は、新型コロナウイルスの大流行によるものである。具体的には、まず出張費について、計画していた国際会議への参加が困難となった。一部の会議はオンライン形式に切り替えられたため、予定していた出張費が節約された。次に、出版費については、研究の遅れにより論文出版が当初の予定より遅れ、予算の消費が見込まれなかった。さらに、予定していた招聘活動もコロナ禍により実施できず、招聘費用も未使用となった。 これらの未使用分を踏まえ、翌年度の使用計画としては、専門家への相談費用として人件費に充てることを考えている。具体的には、大型計算機のシミュレーションに関する専門知識を持つ専門家を招き、研究の進行を支援する。これにより、研究の遅れを取り戻すとともに、研究の質を向上させることを目指す。
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