宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の偏光ゆらぎ観測は、宇宙誕生直後のインフレーション等を探索することができるため、南極やチリ・アタカマに設置した望遠鏡を用いた観測実験が盛んに行われている。しかし、大気中の雲が生む偏光の混入による系統誤差が懸念される。 本研究の目的は、チリ・アタカマの観測所に赤外線カメラを用いた雲観測モニターを設置し、望遠鏡のデータとの比較から、雲の影響を調査することである。しかし、本年度も新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、雲観測モニター開発、チリ観測所への設置は達成できなかった。 一方で、雲モニターの高性能化を目指し、赤外線カメラだけでは測定できない、雲の高度や粒径、粒子数密度を定量的に測定することができるライダーの開発を行った。連続波レーザーと偏光カメラを用いる安価なシャインプルーフ式のライダーを採用し、製作した。国立環境研究所にて実際に大気の測定を行い、既存のパルスレーザー式ライダーと比較した。互いに一致する結果が得られたが、そのためにはカメラの特性の較正が重要である等、課題も明らかになった。また、シャインプルーフ式のライダーで得られる信号を計算するシミュレーターを開発した。雲粒子の特性推定に重要な多重散乱と偏光の効果を考慮している。実際の雲の測定データとシミュレーションを比較し、定性的にパターンが一致していることを確認した。今後、より詳細に解析を行うことで、実際に雲粒子の粒径、形状、数密度が推定できるだろう。
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