本研究は、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の偏光観測を通して、インフレーション起源の原始重力波を探る。CMB地上実験では、望遠鏡のside-lobeから計測器に入る地形反射による迷光汚染が大きな系統誤差であり、次世代実験では高い精度での系統誤差の制御が必須である。本研究では、CMB実験で新たにリングバッフル構造を望遠鏡バッフル技術として検討し、系統誤差の抑制効果を研究する。3年計画にて、Simons Observatory望遠鏡に実装する改良バッフルを開発する。実測データと光学計算を基に迷光汚染の抑制効果を評価し、CMB実験の感度向上を目指す。 2020-2021年度は、光学計算とバッフルに使用する吸収材の測定を基に、リングバッフル構造による迷光汚染の抑制効果を定量的に解析した。これを基にリングバッフル設計を実施したが、バッフルの肥大化により構造的な安定性が損なわれる結果となり、振動による観測中の系統誤差が懸念されることが判明した。バッフル設計を最適化し、大きさを最小限に抑えつつ、観測に必要な光学性能を維持した設計へと変更した。 2022年度は、改良したバッフルを製作し、構造・光学的により安定性が高く、より運用しやすい四分割組み立て構造のバッフルを完成した。1.7m高さ・2.1m直径のバッフルを四分割の組み立て構造にすることにより、輸送・保管コストを下げ、分割部分のリブ構造により強度・固有振動数も高めることに成功した。吸収材の測定と合わせ、見込まれるバッフルの系統誤差の抑制効果を定量的に評価した。新型コロナの影響により、望遠鏡の観測開始が遅れているため、改良バッフルは2023年度に搭載される予定である。本研究では、よりコスト・構造・光学的に優れたバッフルを開発し、観測感度の向上が期待できる成果を上げた。そして将来実験に向けて、リングバッフルの光学的な有用性を解析した。
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