研究課題/領域番号 |
20K14484
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 光成 東京大学, 宇宙線研究所, 特任研究員 (60838960)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ガンマ線 / チェレンコフ光 |
研究実績の概要 |
本研究では、気球搭載光源を用いてチェレンコフ望遠鏡が観測する宇宙ガンマ線のエネルギー較正を改善し、暗黒物質探索の感度向上などに結びつけることを目指している。令和2年度は、主に気球に搭載する紫外線光源の選定と試験を行った。光源をドローンに搭載して低高度に滞空させての望遠鏡較正は先行研究があるが、本研究は気球により高度10kmという遠方に滞空させた光源を観測するという点、またLEDのハイパワー化が難しい比較的短波長の紫外線が必要という点でチャレンジングなものである。なるべく出力が大きく、波長がチェレンコフ光の吸収量が最大となる300nmに近く、チェレンコフ望遠鏡がトリガーされるようパルス幅が数十ns以下の時間特性を持つLEDが必要になる。これを満たす可能性がある製品はわずかであり、その中からDOWAエレクトロニクスの308-FL-02-G02を購入した。実際の運用で光を捉えるのは光電子増倍管であるため、光電子増倍管を用いてパルス幅や光量を測定し、パルス幅は10ns以下、また10個程度を同期させれば10kmの距離で望遠鏡で観測可能な光量が得られることを確認、このLEDの採用を決定した。 また先行する気球実験についての調査の過程で、LEDやパルス生成回路の温度や気圧といった動作環境を保持する仕組みの確立が優先して解決するべき問題として浮上した。これら多大な消費電力や重量を必要とする可能性があり、先行事例の詳細や差異をさらに調査する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和2年度は新型コロナウイルスの流行により大学での実験が一時制限されたほか、現在運用中のチェレンコフ望遠鏡に関する対応に追われたため、計画していた基本的な設計・試作が完了しなかった。使用する気球の前にペイロードとなる光源やその駆動回路、電源などの重量をおおよそ決定する必要がある。光源についてはLED308-FL-02-G02が極めて良好な光量、時間特性を示したためこのLEDの採用を決めたが、単独では必要な光量に達しないため複数個を同期する必要があり、その回路と消費電力の検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
気球は比較的安価な気象観測ラジオゾンデ用のゴム気球を予定しているが、具体的なサイズや搭載する機能等の詳細を決定する前にペイロードの重量をおおよそ確定させる必要がある。 購入したLED308-FL-02-G02については極めて良好な光量、時間特性を示しており、このLEDの光量、消費電力を前提に早急にパルス回路、温度等の動作環境の保持機構の設計・試作を進める必要がある。これらを令和3年度中なるべく早期に実施し、気球を含めた全体的なデザインの目処をつけたい。パルス回路製作は技術的難題ではないが、専門性が高いためエレクトロニクス開発に実績のある企業の協力を仰ぐ。また動作環境保持については発泡スチロールで回路等を包み、ヒーターにより保熱する方向で設計を進める。先行事例があるものの消費電力や重量との折り合いが問題となる可能性があり、また光源は不透明な素材で覆えないためそのまま採用することはできない。試作と試験を繰り返しつつ開発を進める。また光源の試作の良好な動作を確認でき次第、正確な光量や温度依存性の測定を実施する。 さらに、望遠鏡で観測するため地上に位置情報を送らなければならない。気象観測ラジオゾンデ用の送受信システムの採用を予定していたが、遠距離の気球との安定した通信が可能であるか要確認であり、イリジウムといった衛星通信の利用も検討する必要がある。イリジウムショートバーストの利用は先行事例があるが、送受信での約1分の遅延や、送信インターフェースの開発にかかる時間が懸念材料である。これらの影響や新規の開発がどの程度必要か確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度はLEDの試験が遅れたためその結果が必要となるパルス回路などの試作に進むことができず、その費用は次年度使用とすることとなった。今後、令和3年度前期中には必要になる見込みである。 令和3年度分の費用は通信および保温システムの購入または試作に充てる予定であるが、採用する手法が未決定なため品目・金額がまだはっきりしない現状にある。また、搭載する光源に関して解決するべき問題が多く浮上したため、気球購入のための費用の使用は令和4年度となる可能性がある。
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