研究課題/領域番号 |
20K14486
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安達 俊介 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任研究員 (80835273)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ダークマター / 低温検出器 / ミリ波 |
研究実績の概要 |
本研究では宇宙の謎の一つであるダークマターを理解するために、ミリ波を用いたダークマターの探索実験をおこなっている。ダークマターは宇宙観測などでこの宇宙に存在していることが明らかになっているが、未だにそれがどんな質量を持つか、他の粒子とどんな反応をするのかわかっていない。本研究では、今まであまり探されてこなかった質量が小さく光と弱く相互作用するようなダークマターにフォーカスして探索している。 本研究で探しているダークマターは金属板で非常に小さい確率で光に転換される。転換して出てくる光の周波数はダークマターの質量に比例し、我々が特に探索したいダークマターではミリ波の周波数帯域の光(20~220GHz)を生じる。 現在我々は、第1段階として 20~30GHz の光を生じるダークマターを探索している(質量にして0.00008~0.00012eVもの小さな質量に対応)。非常に小さな確率で金属板で転換される光を検出するには、検出器のノイズレベルが十分低いことが重要である。ミリ波帯域の測定では身の回りの物質の熱輻射からくる光がノイズとなるので、低温に冷やされた受信機を用意して周りの環境から受信機に入ってくる熱放射ノイズを十分に抑制する必要がある。今年度はそのために、4K(-269℃)まで冷やされる低温受信機を設計・作製した。すでに、一度冷却テストをおこない、3Kまで冷えることを確認している。来年度は受信機の性能を評価した後、早速ダークマターの測定を始めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度では当初の予定通り、周りの物質から放射させる熱放射ノイズを遮るための、アンテナが内蔵できるクライオスタットを完成させた。設計の際には、熱放射ノイズを十分抑えられるよう高周波電磁波シミュレーションを用いた推定まで行い、先行研究と比較して熱放射ノイズを1/10に抑えられると推定した。さらに、クライオスタットの冷却テストもすでにおこなっており、予定の5Kを下回る3Kまで冷えることも確認できている。 また、当初の予定にはなかった熱放射ノイズを吸収するための電波吸収材(黒体)のクライオスタットへの実装もおおよそ済んでいるので当初の計画より進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、黒体を搭載した状態で再度クライオスタットの冷却試験をおこなう。黒体という物質を追加したことによる冷却性能の変化も生じる可能性があるので、まず冷却性能の評価をする。それだけでなく、実際にアンテナでデータを取得して受信機のノイズレベルの評価もおこなう。 ノイズレベルが予定通り十分低く抑えられていれば、早速実際に20~30GHzの測定を一週間ほどかけておこない、世界初の周波数帯域(=ダークマター質量)での測定をおこなう。この結果は論文にまとめる。 これらに並行して、アンテナで得られた高周波のデータ取得回路の改善もおこなっていく。現在はスペクトルアナライザを用いてデータを取得しているが、スペクトルアナライザでは測定のデッドタイムが大きい、一度に取得できる周波数の帯域が狭い(10MHz)、という2つの欠点があることがわかっている。この欠点を克服するために最新の高速なRF回路技術を用いた高周波測定機器の開発をおこない、来年度でのより広帯域での測定で活かせるようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度開発したクライオスタットの製作費にこの当該助成金を充てる予定であったが、このクライオスタットを共同で使用する研究があり、そちらの研究での予算を用いることができたために、クライオスタット製作費分の助成金が繰り越された形になっている。 本研究では30GHz以上の高周波の帯域でのダークマター観測をおこなううえで必要なミキサーや逓倍器といった高価なRF物品(1個10万~100万程度)がいくつか存在している。昨年度使うはずだった助成金はそういった高周波帯域での測定を可能にするRF物品の購入費に充て、3年目の測定で当初の予定よりも幅広い帯域での観測がおこなえるようにする。 また、翌年度分として請求した助成金に関しては、高速、広帯域でのデータ取得回路を作製するための電子回路(FPGA)の購入費、開発費に充てる計画である。
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