J-PARC KOTO実験は、標準理論で強く抑制されているK中間子の崩壊事象、KL→π0ννの観測を通じて,新物理の探索を行うことを目的としている。その中で、本採択課題の目的は、KOTO検出器を改良し、荷電粒子の精密測定を可能にすることである。その最初のステップとして、近年明らかになった荷電K中間子が引き起こす背景事象を削減する検出器開発を行った。KOTOビームラインは、電荷を帯びた粒子は、途中の磁石で除去されるようデザインされている。しかしながら、中性のKL中間子がビームラインの壁と相互作用することで、微量の荷電K中間子がKOTO検出器に入り、背景事象となる。令和二年度は、この背景事象を削減するため、KOTO検出器の入り口に設置する上流荷電Veto検出器(UCV)の開発・試験・運用を行った。UCVは、荷電粒子がシンチレーションファイバーを通過して生成した光子をMPPCで検出し、電気信号へと変換する仕組みをもつ。2019年に製作したプロトタイプで得た反省を踏まえ、7月にデザインを開始し、シンチレーションファイバーの性能評価、エレクトロニクス・メカニクスの開発を経て、11月に実機が完成した。12月は、東北大学の電子ビームを用いたテストを行い、性能検査を行った。予定していた荷電粒子の不感率として、5%未満が達成されることが示された。2021年2月には、J-PARCの実地での運用が始まり、KOTOビームラインの中で、想定していた性能が得られることが確認された。本検出器の開発により、既知の背景事象はついに抑え込める段階へ至った。
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