研究課題/領域番号 |
20K14489
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
廣瀬 穣 大阪大学, 理学研究科, 助教 (30816880)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヒッグス粒子 / 半導体検出器 / ATLAS実験 |
研究実績の概要 |
LHCの再稼働予定日がCOVID-19の世界的流行の影響で2022年に遅れることが決定された。よって、2021年度は主に以下のふたつの研究を進めた。ひとつ目は2022年度に開始されるデータ取得の準備を完了させること、ふたつ目は本研究課題が目指す、ヒッグス粒子とcクォークの結合を確認するためのデータ解析を過去のデータを用いて開始することである。以下では、それぞれの研究の概要を述べる。 ATLAS実験の内部飛跡検出器のひとつであるシリコンマイクロストリップ検出器の運用をスムーズに行い、質の良いデータを効率よく収集することが本研究を成功させる上で欠かせない。そのため、前年度から検出器の性能を監視するシステムの開発を行ってきた。今年度は、陽子ビームの試運転時のデータや、ATLAS検出器の統合運転試験時に取得された宇宙線データなどに対して、検出器監視システムを作動させて試運転を行った。監視システムの入力データに不備が見つかるなど、いくつかの問題点を発見することができ、物理データを実際に収集する前に機能の確認を行うことができた。これらを改善して万全の体制で2022年の実データ収集に臨むことができると期待している。また、より少ない人員で効率よく検出器性能を担保できるような改善などを行った。 上記の研究と並行して、過去のデータを用いてcクォークの結合を確認するためのデータ解析を開始した。過去の測定で主要な系統誤差となっている背景事象のモデリングを改善するために、グラフニューラルネットワークを用いた粒子ジェットのフレーバー同定効率の推定法を開発した。従来考えられていた手法よりも、ジェット間の距離などが同定効率に与える影響を考慮に入れることができる。この新しい手法により、従来よりも背景事象のモデリングが正確になることが確認でき、最終的な系統誤差を小さくできると期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度もCOVID-19の世界的流行による影響のため、実験の本拠地であるスイスにある欧州原子核研究機構(CERN)への渡航予定は中止となった。次年度の実験再開に向けて検出器の立ち上げや試運転を進める際には、現地研究者と協力してリモートからできる作業を行うことで研究を進めた。前年度までの経験で、なるべく多くのことがリモートからも作業できるように環境整備を行っていたため、全体的に順調に準備は進んでている。 また、物理解析に関しても、現地開催のミーティングなどへの参加は叶わなかったが、現地研究者とのリモート会議を定期的に開催する、チャットソフトウェアを活用するなどの工夫により、概ね順調に解析が進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
2022年6月のLHC加速器の運転再開に伴い、ATLAS検出器を用いたデータ取得を再開する。検出器運転に数年のブランクがあるため、安定した運転体制を整える必要がある。そのため、実験現場のCERNへ赴き取得初期のデータの質を詳しく解析し、検出器運転のパラメータにフィードバックを与えることでこれを達成する。ここでは、前年度までに開発した検出器の性能監視システムを最大限活用して、可能な限り時間を割かずにすむようにしたい。 残りの時間で、2015年から2018年までに取得されたデータを用いて、現在進めているヒッグス粒子がボトムクォークと結合するモードと組み合わせた解析を完了させ、学術論文として公表する。 COVID-19の影響が今後どうなるかの予想は難しいが、次年度以降は可能な限り、現地への渡航計画を実行したいと考えている。リモートからでも会議の参加などは可能ではあるが、やはり時差などの問題が大きく、素早いコミュニケーションを妨げられていることを2020年度、2021年度の研究で感じていた。次年度は前年度までと違い、実際にデータ取得を再開するため、問題対処への迅速性や、物理的に検出器の運転、保守作業を行う上でも、現地に滞在することは非常に重要なポイントなると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度も引き続き、COVID-19の影響で予定していたCERNへの渡航が中止となった。そのため、渡航費として計画していた予算分がほぼ次年度以降に持ち越された形となっている。まだ感染状況は落ち着いているとはいえないが、各国の渡航制限も緩和されてきているため、可能な限り渡航計画を進めたいと考えている。
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