研究課題
超新星残骸 (SNR) は銀河宇宙線の起源と考えられている。銀河系内のSNR W51Cをすざく衛星で観測し、低エネルギー宇宙線が星間物質中の中性鉄原子を電離することで放射されたと考えられる中性鉄輝線を発見した。その強度は、衝撃波と分子雲が相互作用している領域の付近で高くなっていた。中性鉄輝線の等価幅はMeV帯域の陽子起源を示唆する。W51CではFermiとMAGICによってガンマ線放射が見つかっている。また高い電離率も観測されている。中性鉄輝線強度が強い領域は、ガンマ線の放射中心および高い電離率が観測された地点と一致していた。電離率、中性鉄輝線、ガンマ線に寄与する陽子のエネルギーはそれぞれ異なるエネルギー帯域の宇宙線陽子が寄与している。理論研究者との共同研究により、3つの観測量の相対的な空間分布から、宇宙線が分子雲中を伝播する過程を明らかにできる可能性を明らかにし、この成果を査読付き論文として出版した。一方、SNR近傍で電離率、中性鉄輝線、ガンマ線が同じ領域で観測された例はない。そこで、中性鉄輝線とガンマ線が観測されている領域で電離率を測定するため、電波望遠鏡の観測提案を行った。宇宙線は低いエネルギーから徐々に高エネルギーに加速されるため、低エネルギー宇宙線は宇宙線加速を解き明かす鍵になる。さらに低エネルギー宇宙線は星間物質を電離することにより、星・惑星形成に影響を与えていると考えられている。しかし「宇宙線加速」と「星・惑星形成」分野の研究者が同じ研究会に集う機会はあまりない。そこで『低エネルギー宇宙線Workshop2021』をオンラインで開催し、関係する国内の研究者と情報交換と活発な議論を行った。2022年度打ち上げ予定の「XRISM」衛星搭載X線CCDの開発も行った。衛星搭載品の地上試験データを用いて、新しい較正手法を確立した。この成果を査読付き論文として出版した。
2: おおむね順調に進展している
もともとの予定では、宇宙線起源の中性鉄輝線放射と、硬X線放射、ガンマ線放射を組み合わせて研究を進める予定だった。しかし超新星残骸W51Cの結果は、ガンマ線だけでなく電離率との関連にも注目するきっかけになり、理論分野の研究者との共同研究、そして電波望遠鏡での観測提案に結びつき、新たな展開を迎えている。
宇宙線起源の中性鉄輝線を放射している天体を引き続き探査する一方、硬X線、ガンマ線、電離率を組み合わせた研究を目指す。多波長観測により、低エネルギー側から高エネルギー側までの宇宙線スペクトルや、分子雲中の伝播過程を明らかにできるだろう。具体的には、すでに中性鉄輝線とガンマ線放射が観測されている領域で、硬X線観測、電波観測のアーカイブデータを解析し、必要なら観測提案を行う。
COVID-19の影響で研究会・学会がオンライン開催になり、旅費がかからなかったため、次年度使用額が生じた。翌年度の旅費として使用する。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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