中性子が陽子に比べて極端に多い(中性子過剰)不安定原子核の構造は、安定核やその周辺原子核と比べてどのように変化しているのかということは、現在の原子核物理学における重要課題のうちの一つである。本研究では、原子核スピンを空間的に偏らせた(スピン偏極した)不安定核ビームを用いる独自の方法で、現在その構造が注目されている中性子過剰なAl原子核の励起状態の励起状態を調べこの問題にアプローチする。 本年度は、TRIUMF研究所で実施したスピン偏極31Mgビームを用いて行った31Alの構造解析を進めた。得られた結果として、比較的低エネルギーにおいては球形の状態として理解できる一方で、2 MeV以上の状態では変形した状態と球形の状態が共存することを突き止めた。得られた結果をまとめて、投稿論文の準備を進めている。 また、今後実施を予定しているスピン偏極した33Mgを用いた33Alの構造解明実験に向けて、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)を用いたデータ収集系の開発とベータ遅延中性子測定のための中性子検出器の開発を行った。DSPを用いた収集系とこれまで用いてきたアナログ回路とCAMACモジュールをベースにした収集系の比較を行い、エネルギー分解能の点では従来型の収集系が勝る一方でゲインの安定性や収集効率はDSPを用いた収集系が従来型を上回る結果を得られた。中性子検出器開発についても、プロトタイプを用いて中性子放出エネルギー・強度が既知の17Nを用いてその性能評価を進めた。その結果、エネルギー分解能・検出効率の観点から要求する性能を満たすことがわかり、33Alの構造解明実験に組み込む予定である。また、今後実施を予定しているスピン偏極した33Mgを用いた33Alの構造解明実験に向けTRIUMF研究所に滞在し、現地研究者との議論及び検出器などの整備を行った。
|