研究課題/領域番号 |
20K14499
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田中 良樹 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (00868440)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中間子原子核 / η′中間子 / 飛行時間測定 / イオン光学系 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、ドイツのGSI重イオン研究所において、η′中間子と原子核の束縛状態(中間子原子核)を探索・分光する実験を実施し、存在可能性が理論的に示唆されているη′中間子原子核を実験的に初観測することを目指している。 令和2年度(初年度)には、この実験のために必要となる、FRSスぺクトロメータでの粒子識別検出器群の開発を行った。FRSスペクトロメータの下流焦点面では、測定対象である重陽子に加えて、バックグラウンド事象となる陽子が重陽子の200倍もの量到達することが過去の実験から分かっており、このバックグラウンドとなる陽子の事象を、データ収集回路レベルで棄却することが、本実験実施のためのポイントとなる。そこで、スペクトロメータ内における重陽子と陽子の速度の分布が異なるために生じる飛行時間の僅かな差を利用して両者を識別できることに着目し、MPPC光検出器を用いた高時間分解能粒子検出器を開発した。さらに、イオン光学的手法により、同種粒子の検出時間分布は広がらないようにする工夫を取り入れた。そして、GSI研究所において、最終的なη′中間子原子核分光実験と同じ条件の陽子ビームを用いた2日間の性能評価実験を実施した。その結果、バックグラウンドとなる陽子を1/10000以下の割合まで棄却できると実証することができ、開発した検出器と回路系が、最終的なη′中間子原子核分光実験に必要な性能を満たしていることを結論づけることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度(初年度)には、GSI研究所でのη′中間子原子核分光探索実験に向けた、FRSスペクトロメータでの粒子識別検出器群の開発を行った。測定対象である重陽子と、その200倍の量発生するバックグラウンドとなる陽子を、飛行時間のわずかな違いを利用して回路レベルで識別するために、MPPCを用いた高時間分解能検出器のプロトタイプおよびその信号処理回路系を製作した。そして、GSI研究所において、最終的なη′中間子原子核分光実験と同じ条件の陽子ビームを用いたテスト実験を実施して、プロトタイプ検出器および信号処理回路系が必要な性能を満たしていることを確認した。以上のように、当年度に予定していた検出器開発を完了することができたため、おおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度(2年目)には、初年度に開発したFRSスペクトロメータ側の検出器システムを実際にFRSに設置し、さらに現在GSI研究所において準備を進めている WASA検出器群の組み立て・インストールを行う。その後、FRSスペクトロメータとWASA検出器システムの全体調整実験を実施した後に、SIS-18加速器からの陽子ビームを用いて、η′中間子原子核分光の本番実験を実施する。(実際に現時点でのGSI研究所の加速器運転計画において、η′中間子原子核分光実験のためのビームタイムが2022年3月にスケジュールされている)。 この実験遂行までの間、現地にて長期滞在を行う。 令和4年度(3年目)には、取得したデータの解析を中心に行う。η′中間子と原子核の束縛状態(中間子原子核)が発見された場合には、その束縛エネルギーを評価することで、η′中間子の原子核中での性質を初めて導出することができると期待される。また、逆に束縛状態が観測されない場合には、その生成断面積に対する制限をかけることで、η′中間子の原子核中での性質に対する評価を行うことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:購入予定の実験装置の納期が間に合わないと判断したため。 使用計画:当初購入予定であった実験装置を、次年度の前半に購入することに充てる予定。
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