研究課題/領域番号 |
20K14513
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
仏坂 健太 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (50867033)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 原子の禁制線データ / キロノバ 放射の解明 / 元素の起源の特定 / 中性子星合体が作る元素 |
研究実績の概要 |
当該年度は、キロノバ 星雲期の放射の計算に必要な原子データの収集及び、作成を行った。具体的には、実験的に知られているエネルギー準位および量子状態から、LS結合の下、原子の磁気双極子遷移に関する選択即を用いて、禁制線を特定した。さらに磁気双極子遷移は角度方向の波動関数にのみ作用するという性質を用いることで、角運動量の量子数と遷移エネルギーのみで遷移確率を表すことができるという性質を用いて、それぞれの禁制遷移確率を導出した。これまで原子番号26番の鉄までしか知られなかった禁制遷移の波長と遷移確率を鉄以降、原子番号99番のアインシュタニウムまで求めることに成功した。このデータの強みは実験によってキャリブレートされたエネルギー準位を使うことで、非常に高い精度(キロノバ の観測と比較する目的には十分高い精度)で禁制線の波長が特定されていることである。 このデータを使い、最初の中性子星合体GW170817のキロノバ星雲期の放射のSpitzer宇宙望遠鏡による観測と本課題で得た理論計算を比較できるとことまで進展した。Spitzer宇宙望遠鏡のデータは3.6ミクロンと4.5ミクロンのフィルターの測光データという限られたものであるが、観測されたスペクトルは極めて特徴的な形をしている。このデータと我々の理論計算を比較したところ、実際に観測された放射は主にセレニムもしくはタングステンの禁制線で説明できることがわかった。この研究結果は現在Monthly Notice of Royal Astronomical Society Letters に投稿中である。また当該年度に作成した原子データを公開準備を現在進めており、それに伴う論文も現在投稿準備中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では理論モデルと実際のキロノバ 星雲期の観測と比べることで中性子星合体によって作られた元素を示唆するところまで進展する予定ではなかった。しかし、実際に理論を構築してみると、キロノバ 星雲期の放射の大部分は微細構造間の遷移に起因することが判明し、このような場合は比較的簡単に精度の高い理論スペクトルを計算できることが実現できることがわかったため、当初の計画以上に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
当該年度に行なったのは、5年前のSpitzer宇宙望遠鏡による観測であり、データは3.6ミクロンおよび4.5ミクロンに限られたものであった。しかし、2021年にジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が打ち上げられ、今後、この望遠鏡により格段に良い観測データが得られることが期待できる。そのため、今後は、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡によって得らるデータを想定し、それらと比較可能な理論モデルを構築する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ拡大により予定していた海外出張がキャンセルになったため次年度使用額が生じた。今年度はほとんどの外国はコロナ前のように活動を正常化していること、日本から外国出張が比較的生きやすことなっため、前年度に行けなかった国際会議や共同研究者訪問の損失を取り戻すために、輻射輸送に関する国際会議(6月、デンマーク)、重力波電磁波対応天体に関する国際会議 (6月、イスラエル)、重力波観測の将来計画に関する国際会議(8月、アメリカ)、キロノバ に関する国際会議(11月、ドイツ)、重力波に関する国際会議(12月、オーストラリア)に招聘されており、これらの出張費として使用する予定である。
|