キロノバ星雲機における物理過程と重元素の輝線スペクトルの理論研究を行った。中性子星合体のエジェクタ中に存在する放射性元素からのベータ線によるイオン化と重元素の再結合係数を計算し、キロノバ星雲期おける重元素のイオン化状況を明らかにした。また、実験で測定されている原子のエネルギー準位を使って、重元素イオンの微細構造線の波長と遷移確率を求めた。軽元素から原子番号99番アインシュタニウムまで実験データが存在するイオン全ての微細構造線、およそ10万個のデータを作成した。このデータを用いて、キロノバ星雲期の輝線スペクトルを計算し、実際に観測されたGW170817と比較したところ、2.1ミクロンに観測されている輝線はテルルによる可能性が高いこと、4.5ミクロンの強い放射はタングステンによる可能性があることを示した。また2023年3月に起こったガンマ線バーストに付随したキロノバ候補天体の30日後のJWSTによるスペクトルにもテルルの2.1ミクロンの輝線に無矛盾な構造が見られることを示した。これらの結果は、中性子星合体で大量のテルルやタングステンが形成されることを示唆するもので、中性子星合体が重元素の起源である可能性を支持する。
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