研究課題/領域番号 |
20K14515
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
真喜屋 龍 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 客員准科学研究員 (00776031)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 宇宙論 / 銀河形成 / 大規模構造 |
研究実績の概要 |
この宇宙に存在する無数の銀河は、ただランダムに存在するのではなく、「大規模構造」と呼ばれる疎密構造を形成している。本研究課題の目的は、次世代の大規模構造観測計画である「すばるPFS計画」に向けて宇宙論的銀河形成モデルを開発することである。 この目的に向けて、まず本年度は、lognormal_lens と呼ばれるシミュレーションコードを開発した。このコードでは、ダークマターと銀河の模擬的な三次元マップを高速に生成し、得られたマップから銀河とダークマターの分布の相互相関関数を測定する。実際の観測では、ダークマターの密度分布は弱重力レンズ効果によって測定されるが、我々の計算コードにおいても、ダークマターの密度マップに対して ray-tracing 法を適用することで観測で得られるものと同等な弱重力レンズ効果のマップを作成することができた。 このシミュレーションコードの動作原理や精度については私を筆頭著者として論文にまとめられ、Journal of Cosmology and Astroparticle 誌に掲載された (Makiya, Kayo and Komatsu 2021, JCAP Volume 2021, March 2021)。 また、このシミュレーションコードを用いて「すばるPFS計画」に向けた理論予測を行った。具体的には、数千回のシミュレーション結果から「すばるPFS計画」の主要な観測ターゲットである銀河とダークマターの二点相関関数の誤差(共分散行列)を計算することで、観測から得られるであろう宇宙論パラメータへの制限について現実的な予測を与えた。 また、これらの研究と並行して、既存の銀河カタログと宇宙背景放射のマップの同時解析し宇宙の熱的進化史を解明する、という研究も行った。この研究の結果を用いれば、銀河形成モデルを直接制限し、より現実的なモデルを構築できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初の計画通り順調に研究を進めることができ、シミュレーションコードの公開、学術論文の出版など具体的な成果もあげられた。 また、開発したシミュレーションコードを用いた新たな研究も開始させることができた。具体的には、「すばるPFS」をはじめとする光ファイバー分光器を用いた大規模銀河サーベイにおいて銀河やダークマターの二点相関関数にあらわれる特異的な系統誤差について、シミュレーションを用いてその性質と補正方法について検討している。 そのほかにも、より詳細な物理過程を取り入れた銀河形成シミュレーションコードを開発し、将来の大規模銀河サーベイの主なターゲットである輝線銀河の統計的性質についてより詳しく調べる研究も開始している。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、当初の計画通り、「すばるPFS計画」をはじめとする大規模銀河サーベイに向けた銀河形成シミュレーションコードの開発を行っていく。 初年度においては、複雑な銀河形成の物理を含まないもっとも簡略化しかシミュレーションの開発を行った。このコードは非常に高速に動作するため、宇宙論解析のようなデータ量が膨大な分野の研究に有用である。一方で、銀河形成の物理から生じるであろう種々の不定性については上手く取り入れられていないという弱点がある。なので今後は、この弱点を補うために、より現実的なモデルを用いて輝線銀河の統計的性質を調べる研究を行っていく。 具体的には、私の研究グループが以前開発した nu2GC という銀河形成モデルに、星形成領域からの輝線放射やダストの形成までを組み込み、現実的なモデルを構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画に沿って適切に執行した結果、少額の未使用額が発生した。来年度の物品費・論文投稿費として使用する予定である。
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