今年度も引き続き、宇宙論的銀河サーベイに向けた銀河形成シミュレーションの開発を行った。以下詳細を述べる。 この宇宙には無数の銀河が存在しているが、それらは空間的にランダムに散らばっているわけではなく、大規模構造とよばれる疎密構造をなしている。その大規模構造の形状や構造の形成速度は、宇宙のエネルギー密度の分布や重力のモデルと密接に関連している。そのため、大量の銀河を観測して大規模構造をマッピングすることができれば、宇宙論モデルや重力理論の理解を深めることができる。 日本においても、すばる望遠鏡に搭載予定の次世代観測装置 Prime Focus Spectrograph (PFS) を用いた大規模銀河サーベイが計画されている。本研究課題の目的は、このPFSによる宇宙論的銀河サーベイに向けて数値シミュレーションコードを開発すること、さらにそのシミュレーションを用いて実際の観測に伴う統計誤差・系統誤差を見積もったり、データから効率よく物理的情報を引き出す手法を開発することである。 今年度は主に、これまで開発してきた銀河形成モデルに新たに銀河間ダストの形成機構を組みこむ研究を行った。 銀河間ダストには星からの光を吸収・再放射する性質があり、銀河の「見え方」を決定する非常に重要な要素である。しかしながら、その形成・成長過程は複雑であり、宇宙論的銀河形成モデルでは経験的な式でダスト存在量を与えるのが一般的であった。今回は新たに、ダストの質量・サイズ分布の変化を物理的な式にもとづいて解くことで、星質量・金属量・星形成率といった銀河のその他の物理量と一貫性のある形でダスト存在量を計算することができるようになった。 この成果は論文としてまとめられ、現在投稿中である(Makiya and Hirashita 2022)。
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