研究課題/領域番号 |
20K14519
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
金子 岳史 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 特任助教 (40838728)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 太陽プロミネンス・フィラメント / プラズマ乱流 / 太陽物理学 / データ駆動型シミュレーション |
研究実績の概要 |
太陽プロミネンス乱流が磁場の不安定化に及ぼす影響を解明するため、基盤となるシミュレーション手法の開発を行なった。 まず、実際に観測された太陽プロミネンス噴出現象をターゲットとして、データ駆動型磁気流体シミュレーションを実施した。データ駆動型磁気流体シミュレーションでは、観測された太陽表面磁場の時系列データを境界条件とし、上空のプラズマ大気層(コロナ)の磁場構造の変化を、磁気流体方程式に基づき再現する。本研究では、観測磁場を境界条件として与えるだけでなく、観測磁場が磁気流体方程式の数値解の一部として再現される新たな手法を考案した。これにより、従来の手法で発生していたプラズマ速度と磁場の物理的不整合を解消した。この手法を実際の観測イベントへ適用した結果、1つの領域から連続して2度発生したプラズマ噴出現象を再現することができた。 プロミネンスは低温のプラズマ雲(1万K程度)であり、高温のコロナプラズマ(100万K)に囲まれている。プロミネンス乱流のメカニズムを理解するためには、コロナとプロミネンスの間の質量・エネルギー収支を考慮する必要があり、これは熱力学的効果を含めた磁気流体方程式により記述される。そこで、単純な磁場構造を仮定した上で、放射冷却と熱伝導を考慮した磁気流体シミュレーションも実施した。結果、コロナ中にプロミネンスが形成され、さらにプロミネンスとコロナの境界領域で、速度シアに起因するプラズマ不安定(Kelvin-Helmholtz不安定)が発生し、プロミネンスが乱流状態になることを確認した。また、速度標準偏差が上昇したのち、磁場が不安定化し、プロミネンス噴出が再現された。プロミネンス噴出前の速度標準偏差上昇は観測と定量的に整合した。現在、論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
乱流状態のプロミンネンスが磁場の不安定化に伴い噴出する基本的な過程を、シミュレーションにより再現できた。また、当初の計画にはなかったが、新たなデータ駆動型シミュレーション手法を開発できた。これにより、現実的な複雑な磁場構造も数値モデルに反映する展望が開けた。プロミネンス乱流の特性(冪乗則など)を定量的に再現するためには、現在よりも空間解像度を高くする必要があると考えられ、さらに大規模なシミュレーションを実施する必要がある。 基盤的なシミュレーション手法の準備は整い、観測と整合的な結果は得られつつある。一方、研究目的は完全には達成されておらず、シミュレーションの高解像度化を進めていく必要がある。以上から、研究は概ね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、放射冷却・熱伝導を考慮したデータ駆動型磁気流体シミュレーションを実施し、現実的な磁場構造の中で、プロミネンス形成から磁場の不安定化までを再現できるか検証する。同時に、単純な磁場構造を用いた高解像度シミュレーションも行い、プロミネンス乱流の基本的物理メカニズムを解明する研究も行う計画である。 プロミネンス内部で観測される速度場は乱流状態となっていることは定量的に確認されている。一方、乱流の起源は特定されておらず、磁場を介して伝搬する波動、プラズマ不安定、複雑な磁場構造など、様々な説が提案されている。現実的な磁場構造を反映したシミュレーションと単純な磁場構造を仮定したシミュレーションを比較することで、プロミネンス乱流の起源についても解明できる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的なコロナウイルス感染拡大の影響により、学会・研究会のオンライン化が進み、国内・海外ともに予定していた出張が全てキャンセルとなった。一方、スーパーコンピュータ富岳の本格稼働開始(2021年3月)により、当初計画よりも大規模なシミュレーションを実施することができるようになったため、次年度使用額は研究データを保存するためのハードディスク購入に充てる予定である。
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