研究課題/領域番号 |
20K14525
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研究機関 | 呉工業高等専門学校 |
研究代表者 |
野村 真理子 呉工業高等専門学校, 自然科学系分野, 助教 (50756351)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超巨大ブラックホール / 活動銀河核 / アウトフロー |
研究実績の概要 |
ブラックホール周囲の降着円盤から噴出する円盤風は,降着円盤から質量を引き抜くことで,質量降着によるブラックホールの成長過程に直接影響を及ぼし,星間空間に運動量やエネルギーを放出することで,母銀河の星形成に影響を与える.このため,円盤風は超巨大ブラックホールと母銀河の共進化に甚大な影響を与えてきたと期待されているが,その具体的かつ定量的な解明には至っていない. 本研究では第一に,活動銀河核(超巨大ブラックホール+降着円盤)で観測される超高速アウトフローの有力な理論モデルであるラインフォース(金属元素が紫外光を束縛-束縛遷移吸収する際に受ける輻射力)によって加速される円盤風に着目している.昨年度までに,降着ガスに含まれる金属量を考慮したラインフォース駆動型円盤風の輻射流体シミュレーションを実行し,ブラックホールの様々な進化段階や環境に対応する広いパラメータ空間で,円盤風がガス降着に与える影響を定量的に明らかにした.ラインフォース駆動型円盤風は,ブラックホール質量がおよそ10万太陽質量以上かつ金属量が太陽金属量以上の場合に,降着円盤へ流入してきた質量の半分程度まで質量降着を抑制する.一方で金属量が小さい(太陽金属量の1/10)のときには,ブラックホール質量によらず,円盤風は質量降着を妨げないことがわかった.本年度はこの成果をまとめ,王立天文学会月報(MNRAS)にて論文を公表し,国内外の会議で報告を行った. さらに,本年度は共同研究により,円盤風の発射領域よりさらに超巨大ブラックホールから離れた領域で,ダストの輻射力によってアウトフローが形成され,非定常な構造を示すことを明らかにした.これは母銀河スケールから超巨大ブラックホールへのガス流入・噴出現象の理解へ繋がる重要な成果であり,日本天文学会秋季年会で報告した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画を変更し,円盤風の輻射流体シミュレーションコードには大きな改良を加えず,これまでの研究で申請者が用いていたコードをベースに使用することにした.計画に変更はあったものの,宇宙初期(低金属量)の種ブラックホールから,現在(太陽金属量以上)の超巨大ブラックホールまでに対応する広いパラメータ空間におけるラインフォース駆動型円盤風の理論研究について,査読論文を出版し,国際会議1件,国内研究会1件において口頭発表を行い,国内外に向けて成果を十分に示すことができた.観測との比較については,XRISM衛星の打ち上げが当初予定していた2021年度から2022年度と変更になったが,その間に理論研究を着実に進めることができた.また,当初計画では降着円盤(比較的ブラックホール近傍)から噴出する円盤風に焦点を絞った研究を予定していたが, ブラックホールから離れた領域におけるガス流入・噴出現象の研究へと研究を広げることができた.以上のことから,概ね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方策として高降着率ブラックホール天体における円盤風研究と,円盤風の伝播を理論的研究によって進めながら,観測との比較の準備を進めていく. 初年度からこれまで,ブラックホール質量および金属量の広いパラメータ空間での計算を行ってきたが,高降着率(エディントン高度を超える超臨界降着流)を持つ天体についてはまだ扱っていない.超高輝度X線源(ULX)はブラックホールへの降着率が高く,ブラックホールの成長の鍵となる超臨界降着がどのように維持されているのかを解明する上で重要な天体である.そこで,超臨界降着円盤の外縁部から噴出する円盤風の輻射流体シミュレーションを実行し,ULXの円盤内縁部で超臨界降着が起こる条件を明らかにする.また,本研究の目的である,ブラックホールの成長率や星間空間への運動量・エネルギー放出率の解明には,降着円盤で噴出した円盤風がどのように遠方へ伝播していくのかを解明する必要がある.そこで,本年度に論文化したシミュレーション結果(速度,密度,温度)を広い計算領域に注入し,輻射流体シミュレーションによってラインフォース駆動型円盤風が遠方へと伝播するエネルギーや運動量を評価する. 並行して,観測との比較の準備(天体の条件に合わせたシミュレーションの実行やスペクトル計算)を進めていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費400,000円程度の支出を計画していたが,初年度同様,新型コロナウイルスの影響により,研究発表および共同研究者との議論のための国内外の出張が行えなかったことが主な理由である.次年度使用については,現在少しずつ国内出張ができる状況になりつつあるので主に国内の研究会および共同研究者との議論のための旅費,および数値計算データを格納するためのメディア等の物品費や論文出版費用等としての利用を予定している.
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