研究実績の概要 |
活動銀河中心核まわりの多相星間物質が織りなす多層的な力学構造を解き明かし、中心核の遮蔽現象(トーラス)の物理的起源を解明するのが本研究課題の目的である。今年度は、申請者の先行研究(近傍宇宙の比較的低光度銀河核であるCircinus銀河に対する高解像度ALMA観測; Izumi et al. 2018, ApJ, 867, 48)で示された、中心核周辺での炭素原子輝線放射強度の増加の普遍性を調べるために、より高光度な銀河核に対するALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)を用いた高解像度観測データを解析した。その目的は、銀河核からのX線放射により、CO分子が「解離」されてC原子が増加するという星間化学の予測を検証することにある。CO分子とC原子はそれぞれ、分子ガスと原子ガスをよく捉えることのできるプローブであるため、この解離現象の様子を観測的に解明することは、本研究課題目的である多相物質の分布を調べる上で非常に重要である。
観測は、近傍宇宙の高光度活動銀河核の1つ、NGC 7469に対して行なった。ALMAによる130 pc相当の高解像度観測の結果、この銀河の中心核周りでは、明確にCO放射が弱まっており、それとは相補的にC原子放射が増大していた。輝線強度の非局所熱力学平衡モデル計算を、星間化学モデルの予測と比較したところ、この現象は明確に中心核からのX線放射による分子解離現象に起因すると結論できた。長らく活動銀河核に対して予測されていた、X-ray Dominated Region (XDR)に関し、ミリ波サブミリ波帯の豊富な分子・原子輝線観測を動員してなしえた、初めての観測証拠である。
本成果はT. Izumi et al. 2020, ApJ, 898, 75として出版されたほか、その結果の重要性から、国立天文台よりプレスリリースもされた。
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