研究課題/領域番号 |
20K14531
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
泉 拓磨 国立天文台, ハワイ観測所, 特任助教 (40792932)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 活動銀河中心核 / AGN / トーラス / 星間物質 / 電波天文学 / ALMA |
研究実績の概要 |
活動銀河中心核トーラスの動的構造を解明するため、最近傍の活動銀河中心核(AGN)であるCircinus銀河をターゲットとして、多相星間物質の超高解像度観測をALMA望遠鏡で実施した。高密度分子ガスのトレーサーとしてHCN(J=3-2)輝線、中程度の密度の分子ガスのトレーサーとしてCO(J=3-2)輝線、低密度の原子ガスのトレーサーとして[CI](1-0)輝線、そして電離ガスのトレーサーとして水素再結合線H36aを観測した。達成した空間分解能は1パーセクを上回り、AGNに対する「分子、原子、電離ガス」の完備な観測として過去最高の値を記録している。
得られたデータから、中密度分子ガスは銀河中心に円盤構造を形成しており、その中心面に高密度分子ガスが沈んでいることが明らかとなった。さらに、原子ガスはAGNが駆動するアウトフローをしていることも判明したが、その速度は遅く、ブラックホールと円盤の重力に引かれてやがて円盤に舞い戻る(バックフロー)ことも分かった。HCN(J=3-2)線はAGN位置でAGN自体を背景光源として吸収線を作っており、その解析からはAGNへのガス供給が明らかとなった。1パーセク以下の構造でこうしたインフローを直接検出したのは本研究が初である。また、電離ガスは1パーセク領域でコーン状の高速アウトフローをしていることも分かった。これはトーラス的な構造により電離ガス流が「絞られている」ことを明示的に示す結果である。
以上の成果は、AGN周辺のガス流はインフロー、アウトフロー、バックフローのように多様性に富んでおり、かつ、異なる相の物質は異なる運動状態にあることを示す。力学解析の結果、原子ガスの作る構造の厚みはこれまでトーラスに期待されていた値と一致しており、こうした複雑なガス流が複合的にトーラス構造を作ることを実証できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画していた中密度分子ガスと低密度原子ガスの高解像度データ(CO, C)に加えて、ALMAで取得された高密度分子(HCN)と電離ガス(H36a)のアーカイブデータを解析したのが大きな進展である。これらを複合的に用いることで、AGN周辺物質の完備な理解がもたらされた。ブラックホールへのガス降着と遮蔽構造、アウトフローによるフィードバックを複合的に理解したこの成果は、本研究分野のマイルストーン的な成果であると考えている。現在論文を準備中で、2022年度中の受理を目指している。
一方、コロナ禍の長期化により今年度も研究会への参加が大きく制限されたのは残念であった。特に海外渡航の制限は厳しく、国際研究会でこの研究成果を発表する機会が乏しいのは問題だと考えている。2022年度には状況が好転することを期待したい。
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今後の研究の推進方策 |
最近傍AGNであるCircinus銀河の超高解像度観測で、AGN周辺多相星間物質の動的構造が明らかとなった。今後は同種の観測を他のAGNに拡張していく。特に、遮蔽構造はAGNの各種性質(ブラックホール質量や光度)に応じて変化すると考えられているため、幅広いパラメータスペースを探査してその構造変化を捉えることが重要である。既にいくつかの高光度AGNについて、ALMA望遠鏡を用いたCO分子とC原子観測を実施しており、まずはそのデータ解析を進める。加えて、高密度分子ガスや電離ガスの超高解像度観測も行なう予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行により海外渡航を含む出張費として計上していた分を使用しなかった。2022年度には国内・海外の出張も復活すると考えられ、繰越分はそれに補充する。
2022年度請求分は予定通り、海外研究会への参加と論文出版費、研究成果のプレスリリース費に充てる。
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