研究実績の概要 |
本年度は、天の川銀河シミュレーションで鉄より重い元素を持つ星が形成される時期、環境を解析した。鉄より重い元素の代表例としてユーロピウム (Eu)に着目し、太陽組成を0とした際のユーロピウムと鉄の比 ([Eu/Fe])の値で3つのグループ:non-RPE ([Eu/Fe] <= 0.3), r-I (0.3 < [Eu/Fe] <= 0.7), r-II ([Eu/Fe] > 0.7)ごとに形成時期、環境に特徴的な性質があるかを調べた。その結果、non-RPEとr-II星のほとんどは宇宙誕生から60億年以内に形成されたのに対し、r-I星は138億年間に渡って常に形成され続けていることが明らかになった。さらに、金属量の低い星ほど天の川銀河に過去に降着し、現在は天の川銀河の一部になっている矮小銀河で形成される割合が高くなっていた。特に、r-II星は他のグループに比べて矮小銀河由来の割合が高かった。同じ矮小銀河由来の星の[Eu/Fe]と[Fe/H]の関係をプロットすると、1000万太陽質量以上の矮小銀河では[Eu/Fe]比に1桁以上の分散が見られたのに対し、10万太陽質量以下の矮小銀河の一部は、r-II星やnon-RPE星のみで構成されるものがあることが明らかになった。これらの結果は、星の[Eu/Fe]分布には、天の川銀河の形成史が反映されていることを示唆する。 研究期間全体を通じて、高分解能な天の川銀河形成シミュレーションを用いて星のEuに着目し、天の川銀河形成史を辿る研究に取り組んだ。本研究により、鉄の量が太陽の100分の1より小さく、Euに富んだ星の9割以上が天の川銀河形成初期に矮小銀河で形成されたことが明らかになった。さらに、個々の星を分解した銀河形成シミュレーションを実現した。これらの研究成果は、今後の銀河考古学研究で広く活用されることが期待できる。
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