研究課題/領域番号 |
20K14534
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研究機関 | 文部科学省科学技術・学術政策研究所 |
研究代表者 |
北島 謙生 文部科学省科学技術・学術政策研究所, 第2研究グループ, 研究員 (70845445)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 氷 / 光脱離 / 水分子 / 星間分子雲 / 星間塵表面 |
研究実績の概要 |
星間分子雲に存在するH2Oガスの起源は重要な天文学的興味となっている.分子雲に存在する微粒子(星間塵)は,その表面が極低温のH2O氷で覆われており,星間塵表面からの光脱離が有力な起源の候補とされている.一方で,実際の星間塵では,H2O氷の表面がCOなどの固体に覆われた二層構造の氷が存在しており,下層のH2O氷からの光脱離が起こるかは自明ではなかった.そこで,本研究ではCOとH2Oからなる二層構造の氷(CO-H2O氷)を実験的に作成し,光刺激脱離法と共鳴多光子イオン化法(PSD-REMPI法)を用いて,下層H2Oの脱離が起こりうるかを検証した. 2021年度は,H2O氷上に蒸着するCO固体の厚さを変化させ,PSD-REMPI法による下層H2O分子の検出実験を行った.10ケルビンの金属基板に試料ガスを暴露して,異なる厚さのCO-H2O氷を作成し,532nmレーザーの照射によりH2Oを脱離させた.532nmの光子は主に金属基板に吸収され,生じたフォノンの伝搬により氷表面から分子を脱離させうる.昨年度の予備実験では,まず純粋なH2O氷からのH2O分子の光脱離を確認し,さらに,H2O氷上に数分子層のCOを蒸着させたところ,H2Oの脱離量に大きな減少は観測されなかった.そこで本年度は,H2O氷を被覆するCO固体の厚さを変化させて測定を試みたところ,H2O収量の減少が観測された一方で,H2Oの脱離量はゼロにならず,およそ一定値で飽和する傾向が見られた.近年の研究でも,CO固体が,多孔質の構造を持つ結果が示されており,CO固体が持つ空隙を通じてH2Oが脱離している可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究と並行して進めていた研究テーマとして,最近,極低温氷に生じる電気化学的現象が明らかとなり(Kitajima et al., J. Phys. Chem. Lett., 2021, 12, 704-710),2021年度はそちらの研究を優先して取り組んだ.その代わり,本研究の実施時期を延期させ,当該研究の科研費を次年度に繰り越すことで,本研究を継続して進めることとした.
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今後の研究の推進方策 |
繰り越した科研費を使用し,北海道大学での実験研究の実施などにより,本研究を推進する予定である.また,近年,CO固体の構造については,興味深い研究成果が得られており,そうした研究事例との比較を行いつつ,CO-H2O氷における下層のH2O脱離についてより定量的な示唆を得たい.また,2021年度では532 nmの波長を使用したが,H2Oが直接吸収を示すUV領域での光脱離実験を検討している.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度の研究の進捗状況から,本研究を次年度も継続することとした一方,2021年度末には,研究代表者の所属機関の変更があった.そこで次年度は,北海道大学での実験研究を実施するための旅費を主な使途とし,さらに,試料ガスや光学部品等の購入を目的として科研費を使用する.
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