本研究では,星間分子雲に存在するH2Oガスの起源を解明すべく,分子雲内の氷微粒子(氷星間塵)を模擬した極低温氷表面からのH2O脱離過程を調べた.極低温環境では熱脱離が起こりにくく,氷表面からのH2Oの光脱離が有力な起源の候補とされる.ところが,H2O氷に対する光脱離過程は先行研究が存在するものの,H2O氷の上層がCOの固体で覆われた系で下層のH2O分子が光脱離しうるかは自明でなかった.そこでCOとH2Oからなる二層構造の氷(CO-H2O氷)を実験的に作成し,光刺激脱離法と共鳴多光子イオン化法(PSD-REMPI法)を用いて,下層H2Oの脱離が起こりうるかを検証した.まず,10ケルビンの金属基板に試料ガスを暴露してCO-H2Oの二層氷を作成し,532nmレーザーの照射によりH2Oを脱離させた.下層のH2O氷の厚さを固定し,被覆するCO固体の厚さを変えながらH2Oのシグナルをモニターした.その結果,H2Oのシグナルは徐々に減少するが,数10分子層のCOを被せてもなおH2Oが検出されることが分かった.近年のCO固体の構造に関する研究が示すように,CO固体はポーラスな構造をしており,その空隙を通じてH2Oが脱離することが示唆された.また,532nmレーザーの代わりに,193nmの紫外レーザーを用いてCO-H2S固体に照射し,下層から脱離するH原子を観察した際も同様の傾向が見られた.これらの結果から,上層が数10分子層のCOで覆われた二層の氷において,下層を構成する分子が光脱離しうる結果が示された.
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