研究課題/領域番号 |
20K14537
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊神 洋平 京都大学, 理学研究科, 助教 (30816020)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 宇宙風化 / 水素 / 格子欠陥 / 電子顕微鏡 / 電子分光 / イオン照射損傷 |
研究実績の概要 |
月や小惑星表層で観測される水の主要な起源プロセスの一つとして太陽風として照射される水素イオンと鉱物中の酸素との結合が提案されている。しかし、通常は鉱物に固溶しがたい水素がどのように結晶内に留まり水生成に至るのか明確な説明はなされていない。本研究では、鉱物試料への水素イオン照射実験と透過型電子顕微鏡・関連分光分析を実施することで、ナノ領域に潜む天体表層での水生成メカニズムの解明を目的としている。一年目である2020年度は、基本的な酸化物構造を持つ結晶に対して水素イオンを照射した試料の分析を行った。ナノオーダーで不均質に生じるわずかな構造変化・化学状態変化を捉えるため、電子線ナノプローブの走査により電子エネルギー損失分光スペクトルデータを局所領域から二次元的に収集した。得られたデータの多変量統計解析により、試料の照射表面極近傍に不均質に存在する微細なスペクトルの特徴が抽出され、これらは微量水素により統一的に説明がされた。結晶中各元素の化学状態とそれぞれのナノ空間分布を可視化することで、注入水素が結合の切れた原子と化学的に結びつき、複合的な欠陥を形成しつつ留まっていることが示された。これにより、大気のない天体表層における酸化物の結晶中のはじき出し点欠陥と注入水素原子の化学的相互作用、およびそれによる水素のトラップ機構の理解が進んだ。また、星間空間にわずかに存在する酸化物微粒子にも類似の現象が生じている可能性を議論し、共通の物理化学現象により水に関連した反応が広く生じている可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
典型的な酸化物結晶における水素イオン照射損傷プロセスについて、はじき出し損傷と注入水素との化学的相互作用の視点で新たな成果が得られた。天体表層を構成する鉱物の結晶構造はより複雑で多様であるが、基礎的な比較対象に位置づけられる重要な情報であり、実際のレゴリス粒子の分析結果の解釈にも有用と考えられる。今後は結晶構造の異なる鉱物試料の分析を予定しているが、そうした積み上げにつながる成果が得られた。また、本年度はコロナ禍により外部機関での分析が簡単ではなくなったが、研究室所管の装置を調整することにより、当初の計画に追加して新たな分析環境の開発・整備を進めた。以上から、進捗はおおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在、水素イオンの次に太陽風に多く含まれるヘリウムイオンが鉱物の損傷過程へ及ぼす影響を明らかにするため、ヘリウムイオン照射酸化物の分析に着手している。この結果は水素イオン照射試料の結果と統合する。さらに、実際の小惑星表層により多く含まれるケイ酸塩鉱物に対する実験・分析に展開し、酸化物構造との変成プロセスの違いを評価することで、より実際の天体表層環境に近い条件下での結晶内部の損傷および注入水素との化学的相互作用についての解明を進める。今年度も分析に関する出張が簡単ではない状況が見込まれるため、研究室所管の装置の調整による新たな手法開発・整備を並行して進める。
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