小惑星は赤外線放射によって自転が暴走加速することがしられている。はやぶさ2が訪れた小惑星リュウグウは、かつて自転周期が3時間程度だったと考えられている(現在は7時間程度である)。そのため、リュウグウはそのような高速自転小惑星を詳細に研究することができる初めての例である。このリュウグウの現在の自転状態を解析し、さらにそのような高速自転がリュウグウの形状や表層進化にどのような影響を与えるのかを明らかにすることで、小惑星の軌道進化やそれによる太陽系初期の微惑星の集合や合体による惑星形成、地球への衝突過程などへの知見に発展させることが可能と考えられる。その具体的取り組みとして自転の加速によってクレーターなどの地形や地質にどのような影響が出るかを調査した。令和2年度の研究では、自転が加速するとクレーター地形に東西不対称性が生じること、それらが起きうる条件は自転周期が3.5時間以上の場合に限ることを発見した。さらに、赤道上に青い色を帯びた領域があることがしられていたが、これも自転が加速した場合のエジェクタの分布で説明できることがわかった。令和3年度は前年度の解析手法を応用することで、リュウグウのそろばん型の形状そのものがクレーターエジェクタの降り積もりで説明できることが明らかになった。令和4年度はリュウグウ以外の高速自転小惑星について調査した。その結果、小惑星ヴェスタの赤道に沿うように分布するEquatorial Troughの起源が、リュウグウなどと同様に自転の効果を基礎とするメカニズムで説明できることがわかった。これらの研究はリュウグウのみに限らない一般的な場合について成立する結果である。今後、似たような高速自転小惑星を調査することで、モデルの検証とさらなる発展が期待できる。一連の研究成果として、合計6報の論文を国際学会誌にて公開した。
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