研究課題
金星大気科学における最大の謎の一つであるスーパーローテーションの生成・維持メカニズムの一つに、高度方向に伝播する熱潮汐波に伴う角運動量輸送が挙げられているが、高度方向に伝播する熱潮汐波が捉えられた観測例は一つもない。しかし、本研究によって、あかつき電波掩蔽観測データの解析から低緯度における熱潮汐波の鉛直構造が明らかになってきた。東西波数1(一日潮)と2(半日潮)を取り出して、それらの鉛直構造(振幅と位相の地方時-高度分布)を取得したところ、半日潮が高度50-55kmあたりを境にして位相が地方時の早い方に傾いていることがわかった。この特徴は過去の理論研究の結果と整合しており、世界で初めて上下伝播する熱潮汐波を見出したことを示唆する結果である。その一方で、金星大気大循環モデルを用いた理論的な研究も進めてきた。大気安定度に対する熱潮汐波の伝播特性の依存性を調べたところ、安定度の分布を電波掩蔽観測と整合するようなものに設定したときに、モデル内で見られる熱潮汐波の構造が電波掩蔽観測で見られるものと定性的に整合することがわかった。この結果は既に論文としてまとめて海外の科学雑誌に投稿済みである(現在、minor revisionとして論文を改訂中)。2022年における観測データの解析を行ってデータ数を増やし、より精確に熱潮汐波の構造を見出すと共に金星大気スーパーローテーションに対する熱潮汐波の寄与を観測的に定量する。また、昨今の理論研究とも比較して、観測と理論の両面からスーパーローテーションの生成・維持メカニズムを理解したい。
2: おおむね順調に進展している
上述のように、高度方向に伝播する熱潮汐波を捉えつつある。本研究の最大の目的が、高度方向に伝播する熱潮汐波の検出であったため、進捗状況の評価としては順調に進展していると考えて良い。また、理論的な研究の方はすでに論文として海外の科学雑誌に投稿しており、minor revision であるため受理は目前である。観測結果については2022年度中に論文にまとめて投稿する予定であり、それが上手くいけば本研究計画は完璧に遂行されたことを意味する。
上記で述べたように、電波掩蔽観測の結果とGCMの結果は定性的には整合するものの、熱潮汐波の振幅値や位相にズレがある。熱潮汐波の振幅や位相の分布がどのように決まるか調べるために数値的研究は必要不可欠であるが、GCMでは他の波の影響が含まれるため熱潮汐波のみを取り出して考えるのは難しい。そこで線形計算を行うためのモデルを構築して、安定度や平均流の鉛直分布を簡易的に変えることで、それらに対する熱潮汐波の伝播特性を考察し、電波掩蔽観測の結果の解釈に用いる。熱潮汐波は金星大気の運動を理解する上で必要不可欠な要素であるため、線形計算で得られた結果も論文化する価値が十分にあるだろう。
大型の計算機を発注しようとしたが、コロナの影響で半導体の入手が難しくなり年度内に手配することができなかった。また、コロナのために海外の学会や会合への参加が出来なくなったため、旅費として活用する機会が殆どなくなってしまった。そこで、繰越分と翌年度分を合算して、より性能の良い計算機を入手することで研究を今以上にスムーズに遂行させるという方針に変更した。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
Journal of Geophysical Research: Planets
巻: 127 ページ: 1-16
10.1029/2021JE007164
巻: 127 ページ: 1-10
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Atmosphere
巻: 13 ページ: 1-13
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10.1029/2020JE006781
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