研究課題
2020年度は、先行研究において特異な性質を示すことが報告されているcomet 21P/Giacobini-Zinnerの形成環境を明らかにすることを目指した。まず、彗星核に含まれる氷成分としてH2O分子に次いで豊富に含まれるCO2分子の昇華温度がH2Oより低いことに注目し、観測的にCO2:H2O の成分比を決定することで、同彗星に含まれる氷の形成環境の推定を行った。地上からのCO2の直接観測は困難なため、彗星コマ中のH2OやCO2が太陽紫外線により壊されることで作られる酸素禁制線の観測から、CO2の存在量比率を推定した。その結果、同彗星はこれまでに観測された彗星の中でも特に CO2の存在量比が小さい彗星であることが判明し、他の彗星と比べて暖かい環境で形成された氷が含まれていることを明らかにした。この成果は査読論文として出版された(Shinnaka et al. 2020, Astron. J., 159, 203)。また、彗星のコマ中に存在するダストの基本サイズであるsub-micron~数micronサイズのダストの散乱特性を明らかにすることを目指して、2018年9月に国立天文台三鷹キャンパスの50cm公開望遠鏡で取得した彗星の偏光撮像データについて、空間情報を保持したまま解析するパイプラインを開発した。このパイプラインを同彗星の偏光データに適用し、偏光度を決定した。その結果、得られた偏光度の波長依存性は、同彗星の異なる太陽位相角の結果と異なることが明らかとなり、同彗星は、核表面で異なる反射特性を示す領域が存在する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
COVID-19の影響で本年度に予定した観測の一部が行えなかったものの、アーカイブデータを用いて、偏光データのデータ処理パイプラインの開発や、処理したデータの解析などを実施した。よって、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
本研究では、原始太陽系円盤の氷微惑星の生き残りである彗星をプローブとし、原始太陽系円盤内の対極的な物質輸送・循環とその原因を明らかにすることを目指している。具体的には、同一の彗星について、円盤の氷雪線外側における物質の輸送・循環に敏感な「各種分子の同位体存在比および超揮発性分子の存在比」と同時に、円盤の氷雪線内側における物質輸送のプローブである「シリケイト鉱物の結晶度」を観測的に決定し、サンプルを増やしていく。2021年度は年末にRosetta探査機が2年近くその場観測を行ったcomet 67P/Churyumov-Gerasimenkoの地上からの観測条件が良い。ロゼッタ計画では、同彗星の同位体比が質量分光法で測定されたが、地上観測で通常行われる分光学的な測定方法との比較はなされていない。これらの研究に必要な同彗星の高精度な観測データを取得するため、すばる望遠鏡、VLT望遠鏡などの望遠鏡の観測時間を確保する。得られた研究成果について、積極的に研究会で発表するとともに論文としても発表する。
COVID-19の長期化により、2020年度に参加を予定していた全ての各種会議や研究打ち合わせがオンラインで実施となった。このことにより、旅費として計上した費用が不要となった。その代わりに、本年度以降に購入予定であった物品の一部の購入にあて、研究の進捗を早めている。今後も各種会議がオンラインで実施される場合、研究の一部を業務委託するなど、研究の進展を早める予定である。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)
Icarus
巻: 363 ページ: 114425~114425
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Astronomy & Astrophysics
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The Astronomical Journal
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https://www.kyoto-su.ac.jp/news/20210406_859_comet.html