研究課題/領域番号 |
20K14541
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
新中 善晴 京都産業大学, 神山天文台, 嘱託職員 (60774429)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 彗星 / 化学反応 / DSMC法 |
研究実績の概要 |
2021年度は、彗星コマ中での化学反応について研究を進めた。彗星核に含まれる氷成分の主成分のH2O分子(約80%)と次いで豊富に含まれるCO2分子(約10%-15%)は、昇華温度の違いから原始太陽系円盤中での形成環境を推定するという観点から重要である。しかし、いずれの分子も地球上にも存在するため、地上からの直接観測は非常に明るいかつ地球との相対速度が大きい彗星しか行えないという問題がある。そのため、観測的なCO2:H2O の成分比は、従来、彗星コマ中のH2OやCO2が太陽紫外線により壊される(光解離反応)ことで作られる2種類の酸素禁制線(557.7nmのgreen linesと630.0 nmと636.4 nmのred doublet)の強度比から決定されてきた。しかしながら、この手法は、観測される彗星の酸素禁制線の線幅を説明できないことに加えて、三番目に豊富に含まれるCO分子(約5%-10%)など他の分子による酸素禁制線の生成を無視するなどの問題があった。 そこで、彗星の化学組成比をより正確に推定することを目的に、彗星コマの物理モデルの開発を行い、酸素禁制線の強度比と線幅を同時に説明を試みた。開発したモデルでは、Direct Simulation Monte Carlo法を用いて、各種分子が彗星核から昇華し、彗星コマ中で生じる光解離反応や衝突などを考慮し、各種分子・原子の運動をシミュレートした。シミュレーションの結果、557.7 nmで発光する1S状態に励起した酸素原子は、従来光解離反応で仮定されていたLy-α線では、線幅をうまく説明できないことが明らかとなった。この結果は、1S状態に励起した酸素原子は、Ly-α線より波長の短い(エネルギーの大きな)光子による光解離反応で作られた可能性が高いことを示唆しており、従来の酸素禁制線の強度比からCO2:H2O比への変換式が正しくない可能性を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
VLT望遠鏡の観測時間を取得したものの、悪天候により観測ができず、期待した観測データを得ることができなかったことに加え、開発した彗星コマモデルの計算時間が非常に長く、開発に多くの時間を要したため、実際の観測結果との比較をするに至らなかった。よって、本研究はやや遅れていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、原始太陽系円盤の氷微惑星の生き残りである彗星をプローブとし、原始太陽系円盤内の対極的な物質輸送・循環とその原因を明らかにすることを目指している。具体的には、同一の彗星について、円盤の氷雪線外側における物質の輸送・循環に敏感な「各種分子の同位体存在比および超揮発性分子の存在比」と同時に、円盤の氷雪線内側における物質輸送のプローブである「シリケイト鉱物の結晶度」を観測的に決定し、サンプルを増やしていく。次年度はC/2017 K2 (PanSTARRS)彗星が、H2O分子が昇華するより遠方にいる時期に観測することができ、本年度に開発した彗星コマモデルを得られたデータに対して適用することを予定している。また、太陽と近づく時期のデータについても、すばる望遠鏡やVLT望遠鏡などの望遠鏡の観測時間を確保する。得られた研究成果について、研究会や査読論文として発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の長期化により、参加を予定していた各種会議や研究打ち合わせがオンラインで実施となった。このことにより、旅費として計上した費用が不要となった。また、査読論文の出版を予定していたが、論文の改定に時間がかかっており、出版に至っていない。その代わりに、本年度以降に購入予定であった物品の一部の購入にあて、研究の進捗を早めている。今後も各種会議がオンラインで実施される場合、研究の一部を業務委託するなど、研究の進展を早める予定である。
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