研究課題
本研究の目的は,現実的な形成過程を考慮し,ガス惑星の熱進化過程を解明することである。これまで,原始ガス惑星に降着するガス組成の理解のため,太陽の観測を用いて原始太陽系円盤の組成進化の制約を行ってきた。二年次に得られた成果をまとめ,追加計算などを行い,論文を一報 A&A 誌より出版した。得られた成果について以下に概要をまとめる。原始太陽は原始太陽系円盤からの降着を受けて成長したため,太陽内部の組成構造から円盤ガス組成の情報を引き出せる可能性があり,太陽の形成・進化過程の理論研究を行った。原始太陽系円盤では,cm 程度のサイズの固体成分(ダスト)がガスとの摩擦により急速に落下することで,初期段階では原始太陽に高い金属量のガスが降着する。一方で,後期段階ではダストの枯渇や原始惑星の形成などにより,低金属量の降着になる。この降着流の組成(すなわち円盤組成)の時間進化により,太陽内部に中心部が高金属量,表面が低金属量という組成勾配が作られることがわかった。数値計算により多数の太陽モデルを構築し太陽ニュートリノ観測と比較したところ,1 Myr 程度で円盤組成が高金属量から低金属量に切り替わると太陽の観測をよく再現することがわかった。この結果は,太陽物理においても重要である。太陽内部は分光観測・日震学観測・ニュートリノ観測の3つの観測手法を用いて制約されてきた。それぞれ,表面組成,内部構造,中心部の熱構造の理解につながる。しかし,これまでこれら3つの観測を全て再現する理論モデルが存在せず,「太陽組成問題」もしくは「太陽モデリング問題」と呼ばれ,盛んに議論されてきた。我々が構築した太陽モデルでは,内部の組成勾配により3つの観測を再現することがわかった。つまり,これまで考慮されてこなかった星・惑星形成過程により太陽組成問題を解決するという結果となった。
3: やや遅れている
当初の研究実施計画では,二年次にガス降着過程を含むガス惑星の長期進化計算モデルを構築し,最終年度である本年度にそのモデルを観測と比較し検証する予定だった。しかし,初年度に発見した円盤ガスの組成進化が太陽に及ぼす影響の検討に本年度も注力した。惑星へ降着するガスの組成の理解に必須であり,かつ太陽物理において盛んに議論されている喫緊の課題を解決する可能性があったためである。本年度も筆頭著者論文が一報出版され,毎年論文化に値する成果が得られていることは評価できる。一方で,当初の研究計画で掲げていたガス惑星の長期進化計算モデルの構築は遅れている。以上を総合し,研究課題はやや遅れていると評価する。
本来は本年度が最終年度であったが,次年度まで研究期間を延長した。次年度はすでに開発済みの数値計算コードを用いて,ガス惑星の長期進化過程を調査する。惑星質量やガス降着率などのパラメータ依存性の調査も行い,最新の系外ガス惑星の観測との比較を行う。
新型コロナウイルス感染症の影響で複数の国内・国際出張がキャンセルとなったことにより次年度使用額が発生した。次年度以降に出張が可能になった後に積極的に学会発表を行う予定であり,これに次年度使用額を充てる予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件)
Astronomy & Astrophysics
巻: 667 ページ: L2~L2
10.1051/0004-6361/202244169