研究課題/領域番号 |
20K14545
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
嶌生 有理 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 招聘職員 (60710548)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 衝突物理 / 熱物性 / 小惑星 / 粉体 |
研究実績の概要 |
今年度は、多孔質標的および粉体標的へのクレーター形成実験を行い、熱赤外カメラを用いた衝突残留熱の計測方法を確立した。多孔質標的として石膏岩塊および石膏粗粒粉体を用い、粉体標的として硅砂およびガラスビーズを用いた。石膏粗粒粉体は、新規導入した粉砕機および自動ふるい器を用いて作成した。直径4.7mmのポリカ弾丸および直径2mmの弾丸(ポリカ、Al、アルミナ、Ti、SUS、銅)を衝突速度2.5-6.1km/sで標的に衝突させた。衝突の様子を高速度可視カメラと高速度赤外カメラで撮像し、衝突残留熱の冷却過程を熱赤外カメラで撮像した。衝突実験後、レーザープロファイラを用いてクレータの断面形状を取得した。piスケーリング則を用いてクレータ半径を整理した結果、硅砂標的はガラスビーズ標的よりも規格化クレータ半径が小さいことがわかった。これは、砂の安息角(37°)がガラスビーズの安息角(24°)よりも大きいことに起因すると考えられる。Al弾丸を6.0km/sで衝突させた場合、ガラスビーズ標的では高温衝突生成物はクレータ内に残留するが、砂標的では高温衝突生成物がクレータ外に飛散した。一方、弾丸物質と衝突速度を変化させてガラスビーズ標的に衝突させた場合、衝突速度が小さいほどクレータ内に残留する高温衝突生成物量が少なかった。衝突2秒後の熱赤外画像を用いて、クレータ外に飛散した高温衝突生成物のサイズ分布を計測し、クレータ面積に対する面積比を調べた。その結果、高温衝突生成物量は衝突速度の増加とともに増加し、砂標的ではクレータ外に、ガラスビーズ標的ではクレータ内に多く分布することがわかった。クレータ中心部の冷却過程を調べた所、埋没した高温衝突生成物による表面加熱が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
粉体標的への高速度衝突実験は、宇宙科学研究所の共同利用装置である縦型二段式軽ガス銃の利用が必須である。本年度は、2020年4月の緊急事態宣言発出に伴う共同利用運用の停止、および実験資材の調達の遅れによって、当初計画通りの実験を遂行することができなかった。段階的に緩和された共同利用の機会を利用して、数回の実験を実施する機会を確保できたため、石膏岩塊、石膏粗粒粉体、および粉体標的へのクレータ形成実験を行い、熱カメラを用いた衝突残留熱計測手法の確立を行なった。また、これらの実験データを解析する計算スクリプトの整備を進めた。また、熱カメラ校正用の黒体プレートの設計・製作、および弾丸加速ガスの影響を防ぐ風防の設計・製作を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず宇宙科学研究所の縦型二段式軽ガス銃の共同利用申請を行い、年3回程度のマシンタイムを確保する。衝突クレーター形状への加速ガスの影響を除外するため、衝突チャンバー内に風防を設置する。風防は直径60cmと80cmを製作し、予備実験を行なって性能評価を行う。 クレータ形成実験の標的には、硅砂、ガラスビーズ、細粒石膏粉体を用いる。また、乾燥多孔質粉体として、粉砕機と自動ふるい器を用いて作成した軽石粉体を用いる。前年度に確立した衝突残留熱の計測方法を用いて、多孔質標的および粉体標的へのクレーター形成実験を行う。衝突残留熱の冷却過程と理論モデルとの比較を行うため、小惑星Ryuguの熱物性推定に用いられた熱モデルとの比較検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年4月の緊急事態宣言発出以降、計画していた共同利用実験が実施できず、資材調達に遅延が発生した。また、参加を予定していた海外学会がオンライン開催となった。以上の理由により、使用額の計画と実績に差分が生じた。次年度も海外学会の現地参加は困難であると予想されるため、発生した次年度使用額は、当初予定に追加する標的試料の購入費用に充当する。
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