小惑星リュウグウの高空隙率岩塊と母天体の熱進化過程の関係を明らかにすることが目的である。2023年度は2022年度に作成したガラスビーズ焼結試料の熱伝導率測定を行ったが、試料の脆い性質による取り扱い性の困難さ、また line-heat source 法による熱伝導率計測センサとの接触熱伝達率の低さに起因する熱伝導率の大きな不確定性のため、熱伝導率と空隙率の関係の実験的な調査は十分に実施することができなかった。 研究機関全体を通じては、はやぶさ2中間赤外カメラTIRの低高度観測データを用いたリュウグウ表面岩塊の熱慣性・空隙率の推定を行った(ただし、空隙率推定は隕石や高空隙率粉体についての既存の実験データを外挿した経験式を用いた)。その結果、大多数の岩塊は空隙率 30-50% 程度であり、稀に空隙率 70% 以上の岩塊も存在することを発見した。この高空隙率は母天体の表層付近でほとんど加熱・圧縮を経験していない物質、すなわちリュウグウ母天体中で最も始原的な情報を保持している物質であると考えられる。高空隙率ダスト微惑星の熱進化計算から最終的な母天体内部の空隙率分布を推定し、リュウグウ岩塊の空隙率分布と比較することで、母天体のサイズ・形成年代を制約する手法を構築した。本アイディア・手法はリュウグウに限らず他の小惑星や彗星にも適用できるはずであり、表面物質の空隙率という物理的な情報から母天体の進化を理解するという新たな手法を提案することができた。
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