本研究では、超伝導遷移端型X線マイクロカロリメータ(TESカロリメータ)のエネルギー帯域・分光性能を劣化させることなく、TESカロリメータの開口率・有効面積を改善し、TES-EDSを用いて地球外物質の分析を実現することを目指している。開口率と有効面積の拡大には素子数の増大とX線の吸収体の大型化が必須である。そのために、64素子だったアレイ数を224素子へ拡張した設計に吸収体サイズを120μm角から240μm角へ大型化した吸収体を搭載したTESカロリメータの開発を行った。従来の吸収体は、TES温度計よりも小さく、TESの抵抗を読み出す配線スペースなどがデットスペースとなって検出効率(開口率)が低かった。そこで、 デットスペースである配線スペースを覆うような迫り出した吸収体構造を持つマッシュルーム型吸収体を採用することで、高い開口率を実現した。マッシュルー ム型吸収体のような大型吸収体では、X線の入射位置によるX線シグナルの位置依存が出てしまうため高い熱伝導性が要求される。そこで、昨年度までに導入してきた高い熱伝導性を達成できる電析環境を用いた。この環境で、いくつかの熱伝導性のテストを行い、極低温での熱伝導性の指標となる残留抵抗比(RRR)で20程度と従来の7倍以上の改善を可能とした。これらの設計と環境を用いて、日本では初めて実際にマッシュルーム型吸収体を搭載した224素子(配線は64素子分のみ) のTESカロリメータの開発に成功した。低温での動作実証の結果、エネルギー分解能は10 eV程度と要求されているエネルギー分解能も達成しており、地球外物質分析の実現に向けて大きく前進した。
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