研究課題
主にアンサンブルデータ同化システムの高度化に取り組んだ。30秒ごとのフェーズドアレイアレイ気象レーダーの観測データをリアルタイムに同化し、単一アンサンブルメンバーの30分予報を30秒ごとに実行できるワークフローを開発した。2020年夏に東京大学と筑波大学のスーパーコンピュータシステムを占有利用し、実際にリアルタイムで30秒ごとのデータ同化および延長予報の実行、結果のリアルタイム配信を行なった。また、開発したシステムの動作を2019年夏の降水事例で検証し、30秒ごとに更新される数値天気予報が気象庁による5分更新の高解像度ナウキャストよりも早く降水システム発達の兆候を捉えれる結果を得た。同じアンサンブルデータ同化システムを用いて、2018年と2020年の豪雨の要因分析を行なった。前者については、直前に日本に接近した台風Prapiroonの進路予測と沖縄付近で発達した擾乱が豪雨の予測に大きく影響していることが示唆された。後者については、水蒸気流入の違いがアンサンブルメンバー間の降水予測の差に影響していた。突発的な豪雨はときおり激しい雷活動を伴うことがある。そこで、雷活動を予測可能な数値天気予報モデルを用いて、雷活動観測のデータ同化の利点を理想化シミュレーション実験で検証した。雷活動と大気変数とのアンサンブル相関を計算したところ、雷活動は雲内部の状態と比較的高い相関を持っていた。一方で、静止衛星から観測される赤外輝度温度観測は、雲頂下にはあまり高い相関がみられなかった。したがって、雷活動観測は、赤外輝度温度よりも多くの雲内の情報をデータ同化によって提供できる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ゲリラ豪雨の予測可能性をアンサンブル予報を用いて研究するにあたって、その発達の様相をよく捉えたアンサンブル初期値が必要となる。これまで、使用するアンサンブルデータ同化システムの高度化に精力的に取り組み、一定の成果を順調に達成できている。また、局所的な豪雨の発達に大きく影響する総観場についても、2つの事例について特徴的な流れ場をアンサンブル予報を用いて明らかにした。また、申請時点では開発途中だった雷予測モデルを新たに用いることで、将来的にゲリラ豪雨と雷活動との関係性を研究するために必要となる基礎的な知見を得ることができた。
アンサンブルデータ同化システムの高度化と高速化を精力的に行う。現行のシステムの予測精度には改善の余地がみられるため、データ同化手法と数値天気予報モデル双方を見直す。データ同化手法に関しては、密な観測の間引きが不要となるより高度な観測誤差の導入を目指す。また、数値天気予報モデルを新しいバージョンへ更新し、雲微物理過程に関してより精緻なスキームの利用を検討する。今後、本研究では主にスーパーコンピュータ「富岳」の利用を予定している。これまでの開発は異なるスーパーコンピュータシステム上で行なってきたため、開発しているシステムが富岳上で高速に動作するように最適化を行う。
コロナ禍によって複数の国際学会がキャンセルされたことで次年度使用が生じた。物品購入や論文掲載料へ使用する。
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SOLA
巻: 17 ページ: 48~56
10.2151/sola.2021-008