地すべりは、降雨や融雪の地下浸透によって地すべり面の上の地下水圧が上昇することで発生リスクが高まる。この地下水圧の変動を予測する手法を開発するため、新潟県上越市の伏野地すべり試験地において、気象や地下水圧の長期観測を行った。得られた雨量・融雪量と地下水圧の関係を元に、地下水圧の短期的な応答を予測可能にする水文モデルを開発した。地下水圧をモデル化するには、基本的に数学的な方程式を解くアプローチと、人工知能を利用したアプローチがある。数学的な手法は、自然条件の不確実性から精度が犠牲になる場合が多い。人工知能は高精度だが大量なデータセットが必要であり、計算過程が不透明となる欠点がある。このような問題点を解決するために、両者の良い点を取り入れた新しい手法を開発した。このモデルでは、一定の精度を確保しつつ、使用するパラメータの物理的意味も保持している。地すべり移動に強い影響を与える地下水圧の変動を予測可能にすることは、将来の地すべり発生リスクを推定できる可能性を示している。
研究機関全体を通して、伏野地すべり試験地にて最大積雪水量期に、積雪調査およびトレーサー試験をおこなった。その結果、積雪中に氷板ができると不透水層として機能するため、地すべり地外から地内へ向かって融雪水が流入し、地すべりの誘因となる可能性がわかった。一方、地すべり試験地に新たに流量堰を設置し、計測を開始した。流量とライシメータの観測結果を比較した所、融雪初期から末期へ向かってライシメータの捕捉率が上昇することがわかった。これは融雪初期において融雪水の地表面へ到達する場所が局所化することを示唆し、トレーサー試験の結果から得られた積雪中における氷板などの止水面を側方流下することによって生じると考えられた。
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