これまでに得られた知見に基づき、最終年度では津波の非線形性の影響を考慮した波源推定手法を構築した。波源推定に用いられる津波の理論波形の推定においては、線形の支配方程式が用いられることが多い。本研究では、津波の非線形性の影響を近似的に考慮できる線形の方程式を採用し、これを用いることで理論波形を補正した。補正された理論波形も線形の方程式に基づき推定されているため、従来から用いられている重ね合わせの原理に基づく波源推定手法の枠組みを利用することが可能である。このような波形を用いながら、沿岸域で観測された2003年十勝沖津波の波形に基づきその波源を逆推定した。推定された波源特性は先行研究で推定された波源特性と整合的であり、その波源から生成される津波は観測津波波形を高精度に再現できることがわかった。 本研究では水槽実験や数値実験を通して、従来から用いられてきた数値モデルの特性や適用性とその限界を確認しながら、津波の非線形性に関する特性やそれが沿岸津波波形を用いた波源推定に及ぼす影響などを詳細に分析した。このような分析結果を踏まえながら、非線形性の影響が比較的小さいと考えられる津波の波源推定においても、その影響が無視できない場合があることを示した。沿岸津波波形を用いた波源推定は様々なイベントに対して行われているが、多くの先行研究では津波の非線形性の影響を考慮しておらず、推定されている波源特性に一定のバイアスが含まれている可能性を示した。さらに、本研究では津波の非線形性の影響を考慮した波源推定手法を構築することに成功し、その考慮が推定される波源の高精度化と観測津波波形の再現性向上に大きく貢献することを示した。以上より、本研究課題の目的である津波波形を用いた波源推定技術の高度化を達成したと結論づけられる。
|