研究課題/領域番号 |
20K14568
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
宇都宮 正志 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (10738313)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | テフラ / 石灰質ナノ化石 / 年代層序 / 前弧海盆 |
研究実績の概要 |
プレート沈み込みと島弧衝突テクトニクスが支配する南関東には後期新生代に複数の堆積盆が発達した.これらの堆積盆を埋積した地層は,陸上に露出した深海底堆積物としては世界で最も若い部類に入り,堆積物の変質を比較的被っておらず,微化石やテフラ層など第四紀の高精度な年代指標を適用可能である.しかし個々の堆積盆間の時間面対比は進んでおらず,各堆積盆が記録する地質学的イベントの前後関係については不明な点が多い.そこで本研究ではテフラ層の記載と化学分析,及び海成層の年代決定に有効な微化石である石灰質ナノ化石層序の高精度化によって,前弧域の異なる堆積盆間の時間面対比を行う. 本年度の計画は,海溝斜面盆堆積物(千倉層群)と前弧海盆堆積物(三浦層群・上総層群)においてテフラ層序を構築し,広域火山灰の可能性が高いガラス質細粒火山灰層を採取して,火山ガラスの屈折率と主要・微量元素組成分析を行うことと,石灰質ナノ化石の年代基準面の検討であった.試料採取については新型コロナウイルス感染拡大によって当初の予定からやや遅れたものの,千倉層群と上総層群の約230万年~200万年前の年代区間と,東京湾を隔てた房総・三浦両半島に露出する約450万年~310万年前の三浦層群と上総層群で対比可能なテフラ層の組み合わせを複数見出すことができた.また,石灰質ナノ化石層序の高精度化については,従来注目されてこなかった分類群の形態解析を行い,曖昧だった現生種の出現年代を明確にした.これによって再堆積の影響がある海成層の年代決定についても一定の制約が可能になる.本年度の研究費は主に調査旅費と,テフラや石灰質ナノ化石試料処理の人件費,及び火山ガラスの各種分析に充当された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度は新型コロナウイルス感染拡大によって野外調査による試料採取が当初の予定からやや遅れたものの,房総半島を中心にテフラ層序を構築し,広域火山灰の可能性が高いガラス質細粒火山灰層を採取し火山ガラスの屈折率と主要・微量元素組成分析を行い,千倉層群と上総層群の約230万年~200万年前の年代区間と,東京湾を隔てた房総・三浦両半島に露出する約450万年~310万年前の三浦層群と上総層群で対比可能なテフラ層を複数層見出すことができた.また石灰質ナノ化石層序については形態解析に基づく特定の分類群の出現年代を制約することができた.これらの新たな対比時間面によって,地域間の構造運動の差異や堆積速度の変化を解析することが可能になり,プレートの沈み込みテクトニクスに対する同時期の異なる堆積盆の応答を考察する上で重要な情報となる.以上のように研究の進捗はやや遅れていると評価されるものの,論文公表すべき複数の成果が初年度に得られた.
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き各堆積盆のテフラ層の記載と分析を進めながら,石灰質ナノ化石層序の高精度化を進める.得られた新たな対比時間面によって,地域間の構造運動の差異や堆積速度の変化を解析することでプレートの沈み込みテクトニクスに対する各堆積盆の応答を考察する.他方,当面の間は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から調査地域への移動と新たな試料採取及び国際学会参加のための海外渡航は困難な状況が続くと見込まれる.そこで今後は既存のボーリングコア試料なども活用し,研究費をそれらの既存試料の分析に充てることや,調査対象を本務先から出張可能な地域に集中して効率的に研究を遂行する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画で予定していた国際学会への参加が新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となったほか,調査出張のための国内の移動が制約されたことから採取試料が予定より少なくなったため,試料処理に関わる人件費と外注分析費が比較的抑えられ余剰金が発生した.次年度以降はこれら余剰金を既存試料の分析費や渡航が可能となった場合の研究成果発表のための旅費等に効果的に活用する.
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