南関東ではプレート沈み込みと島弧衝突テクトニクスの影響下で後期新生代に複数の堆積盆が発達した.これらの堆積盆を埋積した地層は,陸上に露出した深海底堆積物としては世界で最も若い部類に入り,微化石やテフラ層など第四紀の高精度な年代指標を適用可能である.しかしこれらの堆積盆内あるいは堆積盆間の時間面対比は限定的であり,各堆積盆が記録する地質学的イベントの前後関係については不明な点が多かった.そこで本研究ではテフラ層の記載と化学分析,及び石灰質ナノ化石層序の高精度化によって,前弧域の堆積盆内及び堆積盆間の時間面対比を行う.最終年度の計画は,前弧海盆堆積物(三浦層群・上総層群)と海溝斜面盆堆積物(千倉層群)においてガラス質細粒火山灰層および石灰質ナノ化石による層序対比を行い,成果発表を行うことであった.上総層群と千倉層群の約230万年~200万年前の年代区間でテフラ層の対比を行い,共著論文として和文誌に投稿した.また,三浦層群上部から上総層群下部で詳細なテフラ層序と石灰質ナノ化石層序を確立した結果,マンモス逆磁極亜帯上限(320万年前)直下に海底地すべり堆積物か礫質砂岩層に覆われる浸食面が認められ,三浦半島や房総半島東部地域ではこの海底地すべりにより450万年~320万年前に相当する地層が欠如していることが明らかとなった.この浸食イベントは局所的な隆起帯の成長により前弧海盆が東西に分化したことを示すマーカーイベントとして位置づけられ,その後上総層群が下位層にオンラップすることでいわゆる黒滝不整合が形成されたと考えられる.この成果は,国内学会で口頭発表を行うとともに国際誌に投稿し受理された.
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