研究課題/領域番号 |
20K14570
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
奥脇 亮 筑波大学, 生命環境系, 助教 (10860091)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 地震計アレイ解析 / 環境地震学 / 大気・海洋・固体地球連関 / 震源決定 / 雑微動 |
研究実績の概要 |
今年度は以下3点の研究実績を得た。 [1] 三組アレイ震源検出手法の開発 研究代表者は、研究実施計画に基づき、日本全国に稠密に展開・整備されるF-net広帯域地震観測網 (防災科学技術研究所) および、台湾・中国など日本周辺に分布する広帯域地震観測網を、ドロネー三角形分割した三組アレイの集合体に再構成し、震源を検出・決定する手法 (以下、三組アレイ震源決定手法) の開発を行った。これにより、従来の震源決定開発手法ではその検出が困難であった、地震以外の振動現象を効果的に検出する枠組みを整えた。 [2] 地震学的未記載の新たな地すべり源検出に成功 研究代表者は、国内外の共同研究者らとの国際共同研究により、[1] で開発した三組アレイ震源決定手法を、連続地震波形データへ適用し、2011年9月台風第12号の日本上陸・通過に伴う豪雨によって静岡県および三重県で発生した複数の地すべり源の発生位置と発生時刻を新たに特定することに成功した。特に浜松市天竜区で発生した天竜地すべりは、崩壊規模が100 mスケールの小規模な地すべりであるにもかかわらず、遠く台湾付近まで3000 kmにも渡って地震波を放射していたことが初めて分かった。検出された地すべりの励起メカニズムを明らかにするために、地震波形データを使って、地すべりに要した力の時空間履歴および質量移動の軌跡を推定すると、現地調査による地形変化とよく一致することが分かった。また、天竜地すべりは、小規模な地すべりであるにも関わらず、地すべりの移動質量と地すべりにかかった力の関係といった力学特性が世界中で発生する大規模かつ破滅的な地すべりと類似しており、地すべりの規模によらない、スケーリング則が成り立つことも見出した。 [3] 上記[1,2] の研究実績を、査読付国際誌 (Okuwaki et al., 2021, https://doi.org/10.1093/gji/ggab129) にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、地震以外の振動現象の検出に有効な三組アレイ震源決定手法の開発に成功した。開発した三組アレイ震源決定開発手法を連続地震波形データに適用し、その結果、地震学的に未記載の複数の新たな地すべり源の特定に成功した。これらの研究実績を、査読付き国際誌にて発表した。さらに、研究計画通り、研究実績[1]で開発した手法を、長期間 (過去20年分) の連続波形データに適用し、地震以外のシグナル励起源の検出とそのカタログ化を順調に進めている。以上の理由により、現在までの進捗状況を「おおむね順調に進展している」と区分した。
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今後の研究の推進方策 |
上記の研究実績 [1,2] により、本研究により開発した三組アレイ震源決定手法は、地震以外の振動現象を効果的に検出し、その発生位置・発生時刻を特定できることを確かめた。とくに、本研究で開発した震源決定手法は、規模の小さな地すべりの発生源の検出に有用であることが分かった。本研究により開発した三組アレイ震源決定手法は、データの選定や地震波の読み取りなど、通常の震源決定に必要な煩雑な処理を必要としないデータ駆動型の簡便な手法である。これにより、従来の震源決定手法ではが困難であった地震以外の振動現象の検出を堅牢かつ容易に実現する。今後、日本全国でリアルタイムな地すべり発生モニタリングを行うことで、地すべりの早期発見や地すべり災害リスクの軽減に貢献することが期待される。また、連続地震波形記録には、研究実績 [2] で発見した地表の地すべり以外にも、海底地すべりや、海洋波浪に励起される海底下の振動現象や、火山現象に起因する微動など、さまざまな地震以外の振動現象を記録していることが報告されている。今後は、当初の研究計画に従い、過去に遡った長期間 (約20年分) の連続地震波形データに、上記の研究実績 [1] で開発した三組アレイ震源決定手法を適用することで、地震以外シグナル励起源のカタログ (励起位置、時刻、強度) を作成する。本研究によって新規に作成する励起源カタログと、気象庁一元化地震カタログ・国際地震センタ ー (ISC) の発表する全世界の地震カタログ・全世界の地すべりカタログなど地震震以外の質量移動を伴う地表変動現象を記載したカタログ比較を行うことで、本研究により開発した三組アレイ震源決定手法の検出能力のさらなる評価、および、検出されたシグナル起源の物理メカニズムの解明を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により、当初参加を予定していた各種学会がオンライン開催となり、旅費が不要となったため。これにより生じた次年度使用額は、研究計画を遂行する上で必要な、数十テラバイトの長期間連続地震波形データ処理に要する、高性能なCPUおよひ高速メモリを備えた計算機の購入と、大容量ハードディスクドライブの購入に使用する予定である。
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