研究課題/領域番号 |
20K14571
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
沢田 輝 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭研究プログラム), Young Research Fellow (10845100)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ジルコン / 苦鉄質岩 / クロミタイト / ハフニウム同位体比 / 太古代 / マントル / 地球化学 |
研究実績の概要 |
初年度に整備した紫外線蛍光鉱物観察装置や比重選鉱に必要な器具、薬品などを活用し、国内外の様々な場所で採集された苦鉄質岩からジルコンの分離を行った。しかし、当初の目論見からは大きく異なり、苦鉄質岩中のジルコンやバデレアイトの存在度は想定よりも遥かに稀であることが確認された。特に、太古代の約35ー30億年前の火成活動でできたとされている西オーストラリアに位置するピルバラクラトンで過去に採集された苦鉄質岩については、約30試料の処理を断行したものの、ほとんどジルコンをえられなかった。わずかに得られたジルコンのカソードルミネッセンス観察およびウラン鉛年代測定を行ったものの変質が進んでおり、初生的な組成・同位体比を保っているものは少なかった。初年度に分析を行ったグリーンランドの32億年前のクロミタイト岩体から得られたジルコンでも同様に熱水変質の影響を強く受けたジルコンが見出されたことも合わせて、苦鉄質岩中ジルコンの熱水変質の影響評価が極めて重要な研究課題となることがわかった。一方でコロナ禍下でも比較的容易にフィールドワークを行える国内地質帯については当初目標通りに研究を進め、特に西南日本の中でも最古級の大江山オフィオライトの苦鉄質岩から分離されたジルコンのウラン鉛年代、ハフニウム同位体比、および微量元素組成の分析を行った論文を出版した。これらのジルコンはは約5億4000万年前の年代を示し、ハフニウム同位体比および微量元素組成から強く枯渇したマントルを起源にもつことが明らかになった。この他にも数か所の国内試料で同様の分析を進め、論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定に準ずる形で、太古代および顕生代の苦鉄質岩試料の重鉱物分離作業を進めた。分析装置については、ほとんどが計画通り順調に稼働しており、一時的にコロナウイルス感染症まん延の影響で外部研究機関への出張が難しくなったこともあったが、 基本的にはデータを得るための作業は全て順調に行うことができた。一方で、予定していた海外でのフィールドワークや岩石試料の採集はほとんど行えなかった。昨年度に引き続き、代替的にまた、想定よりも得られたジルコンの量は少ないことと、分析データから熱水変質の影響評価が重要であることが示唆されたため、研究の着眼点を苦鉄質岩中ジルコンの熱水変質とハフニウム同位体比および微量元素組成へシフトさせながら研究を進めて来た。本研究の申請時にも書いた通り、ジルコンは変成や変質、摩滅に強く閉鎖温度も高いために初生的な組成や同位体比を地質年代を経ても保持しうると長らく信じられてきたが、実際にはかなりのジルコンが変質によって組成や同位体比、年代値が変わってしまっていることが明らかになった。そこで、当初の予定にはなかったジルコンの人工的な熱水変質実験を開始するなど、当初予定からピボットしつつ、ジルコンの保持している初期地球での地質現象のこれまでになかった解読方法の模索を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
当初に予定していた大陸地殻と枯渇マントル分化史の推定を太古代の苦鉄質岩から得られるジルコンの分析によって行うことはかなり難しそうではあるが、一方でジルコンの熱水変質に関してはより詳細な研究が可能であると見込んでいる。これまで変質してしまったジルコンは「使えないデータ」とみなされてきたが、今後はあえて注目して太古代の熱水活動などを評価する指標として役に立てていく方法を検討する。特に蛇紋岩化反応に伴って生じる強アルカリ性の熱水はジルコンを変質させる作用が強いようであり、初期地球の表層環境の復元を考える上で重要な鍵となりうるものであるため、注目している。ジルコンが熱水変質を被った際の微量元素組成やハフニウム同位体比の変化について、より詳細に分析を進めていく必要がある。また、人工的な熱水変質作用をジルコンに施す実験についても継続して行っていく予定である。新型コロナウイルス感染症の感染状況が収束しつつあるため、2022年度中にグリーンランドFiskanaesset岩体の地質調査を行い、太古代苦鉄質岩試料を採集する予定である。採集した岩石は可能な限りすみやかに鉱物分離作業やウラン鉛年代測定、ハフニウム同位体比分析、微量元素組成の分析などを行う。また、これまでにすでにデータの得られている試料については、論文化を急ぐ。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新型コロナウイルス感染症のまん延状況があまり好転せず、予定していた海外出張やフィールドワークのほとんどが実施できなかった。また物品費などについては、別の研究予算から充填した。このため物品費や旅費が未使用になった。次年度の海外出張やフィールドワークで使用する予定である。
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