研究課題/領域番号 |
20K14572
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研究機関 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
柿澤 翔 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, テニュアトラック研究員 (10846819)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 金属鉄 / 高温高圧 / 地球内部 / 放射線X線回折 / 中性子回折 |
研究実績の概要 |
地球深部には、金属鉄や水の存在が示唆されている。地球深部に存在することが示唆されている鉄の多くが水によって鉄水素化物になっているとする仮説が提唱されている。しかし、天然での発見の困難さや観測に制約があることから、その存在や水素量の決定に至っていない。さらに、鉄水素化物の安定性・水素の最 大固溶量など基礎的な情報が全く明らかになっていない状況である。このため、地球深部において鉄水素化物はどの結晶構造で存在し、どのくらいの水素量を固溶可能か明らかになっていない。本研究は、地球深部条件下における鉄水素化物の安定性や結晶構造、水素量を高温高圧その場観察実験によって解明し、その仮 説の当否を明らかにする。 2021年度では、昨年度技術開発を行った高温高圧下における中性子回折実験法を用いて、10-12 GPa, 300-1000 Kまでのfccおよびhcp相鉄水素化物の水素位置の検討を行った。従来の研究では、hcp相中の水素は鉄が作る八面体の隙間に存在している報告があった。本研究の結果では高温下では八面体の隙間だけでなく四面体の隙間にも位置していることが明らかになった。また、高温にいくに従い四面体の隙間に存在している割合が多くなることも明らかになった。 また、高温高圧下における中性子回折実験のさらなる技術開発を行った。二段目アンビルの大型化により、最大荷重を拡大させ最大26GPa, 1500Kの発生が可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、高温高圧下における中性子回折実験によりhcp相およびfcc相の鉄水素化物の水素位置および水素誘起体積膨張率を決定した。決定した水素誘起体積膨張率を用いることでX線回折により迅速に高温高圧下における鉄中の水素量を決定することが可能になった。これにより放射線X線回折を用いて相図を作成することが可能になり地球深部における鉄水素化物について議論が可能になる。 また、高温高圧下における中性子回折実験の開発により下部マントルに相当する圧力での中性子回折実験が可能になりつつある。計画ではマントル遷移層中部までの圧力を目標としており予想外に高圧を発生させることが可能になった。 一方で、放射線X線回折による相図の決定についてはビームタイムの確保が困難であったなどの理由によりやや遅れている。 総合的に考えると本研究課題の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と言える。
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今後の研究の推進方策 |
鉄水素化物の水素誘起体積膨張率は、近年の研究により温度圧力依存性がある報告がある。昨年度までに12 GPa、300-900 Kにおける水素誘起体積膨張率を決定したものの圧力範囲が限られている。 今後は、開発を行った高温高圧下における中性子回折実験手法により12 GPa以上での圧力下でのhcp相またはfcc相の鉄水素化物の水素位置や水素誘起体積膨張率を決定する。 また、同時進行に放射線X線その場観察実験を行い、決定した水素誘起体積膨張率を用いることで相図を決定する。複数の圧力において相図を決定しhcp相やfcc相の最大水素量を制約し地球内部における鉄水素化物の安定相や水素量を決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は新型コロナウイルスの影響で国内外の学会等の出張が少なく翌年度に繰越を行った。繰り越した助成金はアンビルなどの消耗品や備品等の購入に充てる予定である。
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