研究課題/領域番号 |
20K14573
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
浅沼 尚 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特別研究員 (90852525)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ジルコン / 局所U-Pb年代測定 / 高確度化 / アニール処理 / メタミクト化 |
研究実績の概要 |
過去の地球で起きた諸現象とその原因を解読するために地質年代情報は最も重要な要素といえる。そこで、本研究では年代分析において重要な鉱物であるジルコンを対象とし、アニールと呼ばれる焼きなまし処理を組み合わせた高確度LA-ICPMS年代測定技術の確立を目指す。本年度の研究実施状況は大きく標準ジルコン試料の追加準備、アニールしたジルコン試料について予察的年代分析を試みた。 これまで標準試料についてOD3ジルコン(33Ma)、91500ジルコン(1065Ma)、OG1ジルコン(3470Ma)の3種類を予定していた。しかしながら、これだけでは試料のメタミクト化のバリエーションが不十分であると判断できたため、新たにPlesoviceジルコン(337Ma)とTEMORAジルコン(417Ma)を手配した。前者は年代既知である標準ジルコンの中で最もメタミクト化している試料であり、そのメタミクト化の程度に大きなバリエーションが期待できる。一方で、後者の標準ジルコンは年代データの妥当性が最も検討されてきたもの一つと言え、本研究の分析結果を評価する上で重要な試料となる。こちらはGeoscience Australiaより全岩試料を提供して頂き、鉱物分離の工程からおこない、充分な数のジルコン粒子を準備した。これらの標準ジルコンについては900度/1000度/1100度の条件にてアニール処理を施した。 南アフリカ・Theespruit層中の太古代花崗岩より分離したジルコン(およそ3500Ma)についてアニール処理(900deg)を施し、実際にLA-ICPMSによって年代分析を行った。ラマン分光分析結果などからアニール処理後に明確な結晶性の回復が認められた。またU-Pb年代分析結果についても文献値と調和的な結果が得られた。こちら結果はメタミクト化の影響を大きく被る太古代のジルコン試料についてもアニール処理が有用であることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度中には(1)分析試料の準備、(2)アニール処理の実施、(3)電子顕微鏡観察による元素拡散・元素移動の確認を目標とした。(1)、(2)ついては研究実績の概要に記載した通りに達成できた。一方で、(3)については東大・駒場キャンパスの装置を使用予定であったが、新型コロナウイルスの影響もあり研究の進捗が芳しくなかった。これらに加えて、ジルコンの年代分析技術を応用した研究結果を国際誌に3報発表できた。以上、当初の予定の2/3まで目標が完遂でき、論文成果の発表もできたことから上記の自己評価をするに至った。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度達成できなかった電子顕微鏡観察に加えて、ラマン分光分析からアニール後のジルコンのメタミクト化程度の定量評価を行う。本研究では分析条件及びラマンシフトの校正物質の選定を行い、分析技術の確立をめざす。分析技術の確立後、標準ジルコンの測定及びメタミクト化の定量評価を行う。 また、アニール技術の評価を行う前に、装置自体の抱える分析確度も厳密に評価する必要がある。エアロゾル化された試料のICP-MSへの導入効率は同一試料室内でも不均質があり、分析位置ごとに信号プロファイルが異なる。そのため、本研究は試料室の形状を最適化することで輸送ガスの流路・流量の安定化に取り組む。その後、試料室内全体に標準物質を配置し、各位置でU-Pb比を測定する事で分析確度を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、2020年度に掲げた研究目標を達成した上であらためてジルコンのアニール処理に用いるマッフル炉を選定する予定でいた。しかしながら新型コロナウイルスの影響もあり、電子顕微鏡観察を完遂できず、マッフル炉の購入には至っていない。翌年度分として請求した助成金はこちらのマッフル炉の購入にあてる予定である。
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