研究課題/領域番号 |
20K14574
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大谷 真紀子 東京大学, 地震研究所, 助教 (80759689)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 余効変動 / 粘弾性変形 / 余効すべり / データ同化 |
研究実績の概要 |
本研究では、巨大地震発生後に観測される余効変動データから、断層面上で起こる余効すべりと地下深部の粘弾性領域で起こる粘弾性変動の両者を切り分け、変動の推移及び物性パラメタを推定する手法開発を行う。本研究代表者はこれまでに、粘弾性変動の時間発展を計算する手法である、境界要素積分法をベースとした等価体積力法(Barbot and Fialko 2010; Barbot et al. 2017)に、さらに密行列圧縮法であるH行列法を適用した、粘弾性変動の三次元大規模計算手法を開発してきた。またその時間発展モデルを基に、逐次データ同化手法の一種であるEnKF(アンサンブルカルマンフィルター)法を適用し、巨大地震発生後の地殻変動データから地下の粘性構造を求める計算手法を構築し、模擬データを用いた数値実験を行なった。本年度は、巨大地震により励起された粘弾性変動及び余効すべりの両者を含むデータからの変形の推移・物性パラメタ推定への準備として、上記三次元粘弾性時間発展モデルを改良し、粘弾性変動及び余効すべりを同時に模擬する時間発展モデルを構築した。今後本時間発展モデルにEnKFを適用し、変形の推移・パラメタの推定の数値実験を行う。 またこれに並行して、巨大地震発生後の余効すべりのみの時間発展モデルにEnKF法を適用し、地表面変位速度データから余効すべりの推移及び断層面上の摩擦パラメタを推定する数値実験を行なっている。現時点では摩擦パラメタの推定に成功しておらず、断層面上の摩擦パラメタ全てを推定することはできない可能性も含め、今後さらに調査する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、巨大地震により励起された粘弾性変動及び余効すべりの両者を含むデータからの変動・物性パラメタ推定への準備として、粘弾性変動及び余効すべりを同時に模擬する時間発展モデルを構築した。粘弾性領域の非弾性歪みの時間発展として、等価体積力法(Barbot and Fialko 2010; Barbot et al. 2017)に密行列圧縮法であるH行列法を適用した三次元粘弾性時間発展モデルを用いた。また断層面上で余効滑りは速度状態依存摩擦則に従うとし、両者の変動(粘弾性変動・余効すべり)は互いに相互作用を及ぼすと設定した。地震発生前に、粘弾性領域の応力はゼロ、また余効すべり領域はプレート沈み込み速度で定常的にすべっていると仮定し、地震発生による両者への応力変化は瞬時に起こると仮定した。これにより、地震によって励起される粘弾性変形・余効すべりの時間発展を計算することができた。今後、本時間発展モデルにEnKF(アンサンブルカルマンフィルター)法を適用する。本計算において地震時すべり分布が既知であると仮定したが、これは実際のデータの解析をする場合においても、地震波等による解析から地震地すべり分布を得られるので、これを利用することができる。 またこれに並行して、巨大地震発生後の余効すべりのみの時間発展モデルにEnKF法を適用し、地表面変位速度データから余効すべりの推移及び断層面上の摩擦パラメタを推定する数値実験を行なっている。本研究における摩擦パラメタの推定は現時点ではうまく行っておらず、現在推定を行なっている断層面上の摩擦パラメタA, B-A, Lの全て推定することはできない(データから区別できない)可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度構築した、地震によって励起された粘弾性変動及び余効すべりを同時に模擬する時間発展モデルに、EnKF(アンサンブルカルマンフィルター) 法を適用する。過去に行った粘弾性変形の変形・粘性率を推定する数値実験においては、粘弾性変形による地表面の変位量をデータとして、データ同化を行った。一方余効すべりはその時間発展モデルの性質から、モデルと直接比較可能な量は地表の変位速度である。実際の地殻変動データを利用する際には、変位量をデータとする方が、データをそのまま使えるので適しているので、余効すべりによる変動の同化部分に工夫が必要である。手法を構築した後、シンプルな設定での模擬データを用いた数値実験を行い、本手法により推定が可能であるかを調べる。本研究に用いた粘弾性時間発展計算手法は、粘弾性領域において不均質な粘性構造を扱うことができる。どのような構造が推定可能であるか等、本手法の適用範囲を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来国際学会や国内での学会、研究打ち合わせ等に使用するための旅費を計上していたが、コロナによる昨今の状況においてこれらの使用計画がなくなった為。来年度においては、本年度から繰り越した分を計算機の購入・論文の出版費用に用いる予定である。
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