研究課題
沈み込み帯において沈み込む海洋プレート上方の上部マントル(ウェッジマントル, WM)を本研究対象領域とする。WMを構成するかんらん岩は、特にプレート境界で海洋プレートからの水流体によって含水化し、蛇紋石鉱物(中でもアンチゴライト(Atg)と呼ばれる鉱物)を主体とする蛇紋岩に変化する。そのため、含水WMの力学的・水理的な特性を理解するためには、このAtg蛇紋岩の構造とその上記特性の解明が重要となる。これまで変形実験や天然の岩石試料の観察・分析から、Atgの結晶軸はWMで強く配列する一方、その結晶軸の配列パターン(結晶軸選択配向(CPO)などで表現される)は複数存在する可能性が指摘されている。以上を踏まえ、WMにおけるAtg蛇紋岩の構造推定を目的とした本研究では、本年度までに国内複数地域の野外調査とAtgを含む天然の蛇紋岩試料の採取を実施し、これらの採取試料を含む国内外の試料の室内分析からAtgの結晶方位を測定した。これらの本測定試料の解析に加え、これまで報告された複数地域・岩石から、AtgのCPOパターン情報を比較・コンパイルすることで、特定のCPOパターンについて形成メカニズムをまとめた。また蛇紋岩がブルーサイトを含む場合にはWMの比較的浅部で脱水反応が生じる可能性がある。天然試料で観察される、この脱水過程での岩石構造の変化を実験的に再現し、特にブルーサイトのCPOの測定に初めて成功したことで、かんらん石とブルーサイトとの間にトポタキシーと呼ばれる結晶学的な方位関係の存在を初めて発見・報告した。本年度、これまでの成果に基づき、沈み込み帯浅部WM全体における複数種類のAtgのCPOパターンの分布及び形成メカニズムを推定し、深部Slow地震発生領域での蛇紋岩の変形様式を提案した。今後、含水WMの構造と力学的・水理的特性に関する未公表の研究成果については査読付き国際英文誌へ投稿していく予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件)
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