2022年度は,堆積物コアに含まれるアカホヤ火山灰と津波堆積物において火山ガラスの含有率の深度方向への変化を詳細に調べることで,調査地域ごとの両者の堆積時間関係を明らかにした.これまでに採取していた大分県,和歌山県,三重県のコア試料に加えて,和歌山県日高郡で新たに掘削調査を実施した.全ての調査地域において,津波堆積物中にも火山ガラスが最大で67%含まれており,このことは少なくとも津波の到達中には火山灰の降灰が始まっていたことを示唆している.また,和歌山県で採取された堆積物コアでは,津波堆積物層の直下に層厚0.5 cm程度の火山灰層が肉眼で認められたことから,津波の到達前に火山灰が堆積していたことが明らかになった.火山灰の移動速度は津波の伝播速度よりも遅いと考えられるため,火山灰が津波よりも前あるいは同時に到達していたことから,津波が噴火プロセスの終盤に発生したと推察することができる.鬼界アカホヤ噴火のプロセスは,幸屋火砕流によって火山灰が発生した後に,カルデラが崩壊したと推定されているため,火砕流の流入によって津波が発生した場合,遠方地域には津波が先に到達することになる.そのため,この噴火で発生した津波は,カルデラの崩壊が要因である可能性が高いと考えられる. 2021年度までに行っていた津波の数値シミュレーションからも,カルデラの崩壊による津波の方が,火砕流の流入による津波よりも規模が大きくなることが分かっている.このことからも,カルデラの遠方地域に残された津波堆積物の分布を説明するためには,カルデラ崩壊による津波の発生が必要不可欠であると結論づけられ,この結果は堆積物コアの層序関係に基づく推察を支持するものとなっている.
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